オシャレなカフェから気軽に呑める立ち呑み、酒肴のおいしい居酒屋まで、ありとあらゆる飲食店が軒を連ねる浅草橋ですが、カウンターでしっぽりと呑めるお店はそこまで多くありません。
いや、もしかしたら、今回訪れたお店のように、知られざる場所にカウンターバーがたくさんあるかもしれませんが、ひとまず、編集部が歩いてきた限りでは初のカウンター店のご紹介になります。
この地に居を構えてから22年、ご主人が引退されてからも暖簾をくぐる常連客が絶えないという呑み処「浅草橋 八」に、腹を空かせた男2人がフラフラフラッと突撃レポート!
入店してひとまず頼んだ瓶ビール、冷蔵庫からキンキンに冷えた瓶を取り出してきたママさんからグラスを渡されると、我々が一見客にもかかわらず、心温まる手さばきでまさかのお酌をトクトクトクと…。
この瞬間、この店とママさんに惚れてしまったのは言うまでもありません。
では、「八」レビュー、張り切っていってみましょう!
浅草橋駅東口から徒歩2分! ガード下の小粋な門構え
浅草橋の東口から西口にかけてのガード下には、さまざまなお店が立ち並んでいます。
飲食店も多いですが、ビーズやアクセサリーなどの問屋さんも含めて「これぞ浅草橋!」といった雰囲気のある店舗で埋め尽くされていて、いずれは全店訪れなければと思っています。
「八」もその一画にあり、しかも、ちょうど、駅へと向かう道の交差点にあるため、ガード下のなかでもチラリと目につくお店でもあります。シンプルな暖簾ながら存在感ある店構え、酔いどれた呑兵衛ならば、ふらりとドアを開けてしまうことは間違いありません。
ただし、確かに酔いどれ状態でなければ、まだ一度も足を踏み入れたことがない店だとすると、「一見客はいい顔されないかもしれない……」なんて、一瞬、躊躇してしまう方もいるかもしれません。
それは、「八」に限った話ではなく、こういった「カウンターオンリーっぽい店」は、一見客はなかなか入りづらいものがあります。
かくゆう、私も、一度話し出すと止まらなくはなりますが、シラフだとなかなかどうして口が上手に回らないこともあり、「入ろうかな、いや、歓迎されなかったら怖いしやめよう、いやいやここは勇気を出して入ってしまえ……でも、やっぱり……」なんて、ウジウジしながら店の前を行ったり来たりすることもしばしばです。
ひとつだけ言えるのは、「勇気を出して入ってみたら、意外と後悔することは少ない」のが、いい感じの店構えの店のあるあるじゃないかなーと。
チェーン店に入るより、よっぽど、新鮮な体験や呑みができると思いますよ。
ということで、前置きどんだけ長いんだよという感じですが、取り急ぎ、頂いたものをお見せしていきましょう。
お通し2種がうれしい!お盆にのせておひとりさま晩酌
瓶ビールをついでいただき、グラスを傾けながら一杯呑っていると、ササッと登場したのが、こちらの枝豆。
お通しで枝豆は間違いない。
引き続いて現れたのが冷や奴。枝豆に次ぐ、間違いないお通しですが、なんと、この2品までがいわゆる「お通し」なんだとか。
小ねぎと生姜だけでなくみょうがまでのっているのがうれしい。
そうそう、忘れていましたが、八の特徴のひとつがこのお盆。カウンター席のそれぞれにお盆とお箸が用意されていて、このお盆に料理や酒を置いていただくスタイルなのです。
給食の配膳じゃないけど、ひとりひとつ用意されているのってなんだかほっこりします。
最初に注文したのは、「小肌」と「本まぐろ切落とし」。
小皿にのせられた刺身のボリュームがなかなかの量で、そのサービス精神にLOVE。
「じゃこ天」。
地魚などのすり身を油で揚げた魚肉練りものですが、パリッとさらに火であぶって焦げ目をつけたものが提供されました。
香ばしい匂いが食欲をそそります。
と、ここらで、瓶ビールからチュウハイへと酒を切り替える。
ホッピーグラスに注がれるチュウハイは焼酎が濃いめで、しかも、氷が少なめなので、一杯でも十分な酒量を頂くことができそうです。
これを、このあと、調子に乗って何杯もいくことになるのですが、おかげさまで、泥酔しました(笑)。
そして、合間に冷やしトマトを入れて、箸休め。
といっても、八は料理がメインのお店ではなく、どちらかというと、お酒と語らいの場を提供する、いわゆる「新宿ゴールデン街」的なイメージに近いお店なので、一緒にいたお客さんはあまり料理は注文していまんせんでしたね。
おそらく、お盆に1品、2品をのせて、いや、むしろ1品だけをのせてそれを軽くつまみながら酒をチビチビと……なんてスタイルが小粋なような気がしました。
我々はお腹が究極に減りすぎていたので、とにかくガンガン注文していましたが(笑)。
店外に置かれたメニュー表。今、思えば、豚キムチも注文すればよかったな……。
常連さんたちと浅草橋トークで盛り上がる
「お客さん、はじめてですか?」
酒肴をむさぼり、急ピッチでチュウハイを呑んでいたところ、常連さんと思われるダンディーな紳士と見目麗しき淑女が、入店するなり開口一番、そう話しかけてくれました。
「実はこういうサイトをやってまして……」なんて話をはじめたら、あれよあれよという間に会話に花が咲き乱れ、同じくカウンター向かいで呑んでいた常連さんも含めて店内全員で意気投合、お近づきの印になんてことで、「ママさんに一杯!」と調子に乗ったところ、淑女がママさんにお酌をする……ってな状況が、上記写真の決定的瞬間ということになりやんす。
見知らぬ酔いどれ客が、常連も一見も関係なく、老若男女も関係なく、自然と会話が弾んでくるのは、まさに、カウンター内で切り盛りするママさんの人柄あってこそ。
あ、粋だね、粋だね、小粋だね、ってことで、うっかり杯がどんどん進み、気づいたらヘベレケ状態になっていて、常連さんやママさんと記念撮影までしてしまう始末。
淑女が、「コレ写して!」というので、ボトルキープされた「いいちこ」をパシャリ。
彼女とも撮影したのですが、掲載許諾をとり忘れていたので、ひとまずは「いいちこ」を。
いずれ、またお店でお会いしてオッケーもらったら公開します(笑)。
ちなみに、酔いどれて店をあとにしたダンディー紳士さま曰く、「若い人がこういう店に入らなくなってきているのは知っているけど、さびしいよね。
チェーン店とかだとなかなか他のお客さんと会話したりはしないけど、こういう店だと気軽に話せちゃうしね。
もっと、聞いて欲しいんだよ、オジさんの話も(笑)」
大いに聞きましょう、オジさん話(笑)。
ちなみに、2017年には撮影で俳優の斉藤工さんがいらっしゃったこともあるんだとか。
店内に飾られたサインから話が発展し、某お笑い芸人のサプライズ結婚の話やらの芸能ネタなんかにも話が飛び火し、話は尽きることなく夜が更けていきました。
後日、八の由来を聞きに行く……。
いつも以上にヘベレケておりますが、それはやはりママさんの温かい人柄に絆されて、安心してしまった感があったことは否めないでしょう。
そして、取材と称しながらも、肝心の八の由来やママさんのお名前を聞き忘れ、後日、再訪するという展開に……(笑)。
当時、浅草橋に「とん八」というトンカツ屋さんがあって、その目の前に姉妹店の「喫茶店八」というお店もあり、マスターがそこで働いていたんだとか。「とん八」「喫茶店八」の名前を受け継いで、「八」と名付けたそうです。
マスターに代わって店を切り盛りする恵子ママが語ってくれました。
最後に、飲食店の多くは、おいしい食べ物やめずらしいお酒などで人が集まってきたりしますが、この店は間違いなく、マスターやママさんという「人」にお客さんが集ってきているのだと感じました。
疲れ果ててヘロヘロなとき、誰かに話を聞いてもらいたいとき、人の温かさに触れたいとき、そんなときは、「八」の暖簾をくぐってみてください。
優しい笑顔のママさんが、「今日もおつかれさまでした」と、お酌をしてくれるはずです。
小洒落たおつまみや、これぞというお酒は置いてないけれど、ママさんとの会話や、この店で出会う人々との会話が、絶妙な酒肴になることは間違いありません。
さて、それでは今宵も暖簾をくぐり、ママさんのお酌でもう一杯。
文・写真/伊勢新九朗