池波正太郎が愛した浅草橋の名店「洋食大吉」はベビーカー入店OKの洋食屋さんだった!

「エレベーターあるので、よかったらベビーカーのままお入りください」

赤子も含めた合計6人という大所帯で訪れたうえに、地上から地下へと続く階段を下ったところに店があるため、先に入店可能かどうかを店員さんに聞きに行ったところ、女将さんらしき方が、穏やかな口調でそう答えてくれました。

その一言が、彼女の人柄が伝わる優しい雰囲気に満ちたしゃべり方で、瞬間、「このお店は間違いない」と確信したのは言うまでもありません。

ハンドメイドやDIYが流行な昨今、浅草橋にパーツを購入しに訪れる主婦の方もたくさんいらっしゃると思います。

そんなとき、問屋街を歩いたあとにベビーカーでも入れる老舗があるというのは、うれしい情報ではないでしょうか!?

街歩きのあとの休憩にちょっとお茶だけでも、がっつりランチでも、もちろん仕事帰りのビジネスマンたちの一杯でも、どんなシーンにも、どんな人にも安心してご利用いただける名店、「洋食大吉」をご紹介させていただきます。

創業時は一階にあったという大吉。井上ひさしに関する作品のみを専門に上演する『こまつ座』と同じビルに入っている。

創業時は一階にあったという大吉。井上ひさしに関する作品のみを専門に上演する『こまつ座』と同じビルに入っている。

開業4年目に池波正太郎がぶらりと入店

「まだ微かながらも大川端の名残をとどめている柳橋の花街の近くにあるこの洋食屋を見つけて、ぶらりと入ったのは、今年の二月ごろであったかと思う」(『新しいもの古いもの』(著・池波正太郎/講談社)より)で始まる「洋食大吉」のエッセイが、店の前に飾られていて、思わず入店前に見入ってしまいました。

じつは、わたくし、池波正太郎先生の大のファン。しかも、時代劇小説のほうではなく、食や生活について語ったエッセイに魅了されたクチであり、エッセイ集はほぼすべてそろっているのですが(※トイレに置いてあってときどき読み漁る)、これはまだ読んだことがなかったので、さっそくAmazonでポチッといたしました。

もとい、いきなり脱線しましたが、ここでもう一文、引用させて頂きます。

入って見て、食べて見て、一瞬、私は戦前の東京へ引きもどされたようなおもいがした。

清潔で活気にみちた店内、親切なサービス。良心的な値段と味。

これはまさに、戦前の東京下町の洋食屋である。レストランではない。

開業して、まだ四年だというが、二十年も三十年もむかしからの店という落ちつきがあった

戦前の東京の洋食屋の雰囲気がどういうものなのかは体験していないのでわかりませんが、このエッセイから30年以上が経過した今でも変わらぬスタイルを貫き続けている洋食屋さんなだけに、空気感自体は池波先生が体感したものとそう大差はないはずです。

そして、「清潔で活気にみちた店内」に「親切なサービス」については入店後すぐに感じとり、食後には、「良心的な値段と味」もしっかりと味あうことができました。

本当に、もっともっと昔からあるのではないかと思わせる貫禄ある洋食屋さんなのですが、オーナーさんに聞いたところ、創業は1970年なんだとか。

浅草橋の粋人インタビューに登場して欲しいと交渉したところ、「浅草橋にはまだまだたくさん老舗があるから……」と謙遜されましたが、でも、いずれ、ぜひとも、お話聞かせてください!

さて、話がどんどん長くなりそうなので、いい加減、メニューの紹介へと移らせて頂きましょう。

ビールがハートランドで、浅草名物のデンキブランまである!

そうなんです、ランチどきに訪れたのですが、常連さんらしきひとり客のほとんどが、洋食セットにハートランドを注文している光景を目の当たりにしてしまい、このあと仕事があるにもかかわらず、私も一杯……なんて言いそうになったほど、ランチアルコールがとてつもなく美味しそうに……!

池波先生もこんな文を残しています。

そのとき、私はオムレツでウイスキー・ソーダをのみ、ヒレカツレツをつまみ、そのあとでチキンライスを食べた

た、たまらん!

もう、先生の食レポ、この一文だけでヨダレが思わずたれそうになります!!
しかも、「ハイボール」がまだ「ウイスキー・ソーダ」と呼ばれていた時代、「ウイスキー・ソーダ」という響きがハードボイルドでシビれますねー。

とはいえ、ひとつだけツッコミは入れさせて頂きたい……。

オムレツ、ヒレカツレツ、チキンライスってどんだけ食いしん坊なんだよ!

とはいえ、この食欲、この健啖家っぷりも惚れ惚れします。

メニュー表がコチラ。アルコールのラインナップが豊富なのもうれしい限りです。

「今度、必ず夜に来て飲み食いさせてもらいます」と宣言してきました(笑)。

「材料の仕入れによほど努力しているのだろう、牛肉など、とてもよいものをつかっている」と評されているように、食材に対するこだわりも際立っていました。

なかでも、大吉名物とされる豚ロース「岩中ロースカツ」は、なんと宮内庁御用達なんだとか。説明書きにもあるように、1頭から10枚しかとれない一番おいしい部分というのだから、これは食べないわけにはいかないでしょう!

赤子を抜いた総勢5人で、大吉さんの美味しいもの、とこ豚(とん)、がっつり頂いてきましたよー!

総勢5人でワイワイ実食ランチタイム

今回はちょうど夏休みということもあり、我が家の三姉妹と奥さん、ちょうど近辺に買い物に来ていた奥さんの叔母まで参加するという大所帯での食レポとなりました。

ちなみに、なぜに浅草橋を訪れたかというと、長女と次女が夏休みの自由研究をどうしたらいいのかを悩んでいて、それならばハンドメイドの街・浅草橋に行ってみようということになりまして、シモジマさんや貴和製作所さんを巡ってからのランチだったのです。

小学生の長女ですが、「浅草橋を歩く。」でハンドメイドレポをやってみたいと言っているので、いずれ小学生記事がアップされるやもしれません(笑)。

って、脱線が多いな、この記事は!

では、いってみましょう、まずは我が家の奥さんが食べた牛カツレツです。

絶品!

肉の締まりっぷりがハンパなく、ギュッと旨味が凝縮されていて、ひとくち目の口福感は間違いなくビールでした。

曰く、「牛カツレツって白いごはん欲があまりわかないんだけど、ものすごく白米を食べたなくなった。幸せ~!」とのことでした。

そして、なんといっても使われているソースが抜群に美味しいのです。説明書きにもありましたが、昭和天皇がお好きだったサフランソースで、創業当時から変わらずに使用しているとのこと。

このソースがかかっているメニューを頼んだ人たちは、全員が全員、このソースを絶賛していました。

嗚呼、また食べたくなってきた……。

お次は、叔母が頼んだビーフシチュー。見た目のスタイリングからしてまず間違いなく美味しいと伝わってきます。

ちなみに、書き忘れていましたが、赤白チェックのテーブルクロスが可愛らしく、これも古き良き洋食屋さんの雰囲気を醸し出している要素のひとつなのでしょう。

ビーフシチューとテーブルクロスが絶妙にマッチしていたので、思わずそこについてもコメントしてみました。

曰く、「お肉もトロトロでスプーンがとまらなくなる美味しさ」とのこと。私もひと口頂きましたが、これもまた、白米ではなく麦酒な美味しさでした。

そして、次女が注文した昔風ハンバーグとカニクリームコロッケ。

昔ながらの洋食屋さんのハンバーグというだけで垂涎ものですが、大きさ的にもギュギュギュッと詰まった感があり、濃厚なハンバーグが想像できます。

ただし、じつはコレだけは、次女がかたくなに味見させてくれず、食べることができませんでした。

曰く、「すごく美味しいよ」

ボキャ貧か!

そして、我が家のグルメクイーン・長女さんが食べたのは、昔風ロースカツ。つまり、例の岩中ロースを使ったロースカツであり、大吉と言えばこれでしょ! という一品だということです。

それを直感でセレクトするあたり、食いしん坊少女の異名は伊達ではありません(笑)。

こちらはこのあと私も同じ名物のスペシャル版を食べたので感想は後述しますが、取り急ぎ、彼女曰く、「衣のサクサクさと、お肉のジュワッとくる感じ、そしてなによりこのソースが、ソースが本当に美味しいんです」とのこと。

さすがの食レポや!(笑)

ちなみに、目立ちたがり屋な彼女が顔出しOKとゴリ推しするので、登場して頂きましょう。どれだけ美味しいかがこの2カットでおわかりになるはずです。

食いしん坊ばんざい!(笑)

私はコレを食べました。

どーーーん。

  • 岩中のロースカツ<320g>→2000円
  • 付け合わせのキャベツ
  • ライス
  • みそ汁

大きさ!

まず、ロースカツの巨大さに思い切り驚かされました。

g表記を見てなかったので、ここまでのボリュームだとは知らず、見た目のインパクトに衝撃を受けました。ライス、小さっ!!

前述済みですが、芝浦市場から直送される、岩手中央畜産のロース肉を使用しています。

岩手中央畜産を略して「岩中(いわちゅう)」だったのですね。注文時、「いわなかのロースカツ」をお願いしますと言いました、わたくし(笑)。

そして、肝心のお味のほうですが……。

やわらかいんです!

これだけ分厚いのにやわらかくて、口のなかでホロホロととろけるんです。

しかも、長女の言う通り、薄い衣のサクサク感が小気味よく、ジューシーなお肉との相性の良さは抜群!

衣の薄さとしつこくないお味、これが食材の味を前面に押し出している、特筆すべき点なのかもしれません。

中年な胃袋にこの脂身は厳しいかなと思いきや、箸がどんどん進む、進む。

普段は糖質制限気味なのでライスは控えているのですが、もうコレはお米を食べるしかないでしょう、と、久しぶりに白米をガツガツと喰らいました。

いや、もちろん、ビールもウェルカムなんですけどね。

このあと仕事だったから……、しかも車で来ていたし……。

嗚呼、やっぱり、呑んどきゃよかった、ハートランド。

完食!

ごちそうさまでした!

池波先生曰く「親切なサービス」は40年経っても変わらず

そうなんです、冒頭のベビーカーの件だけではなく、店員さんの心遣いと接客の雰囲気が本当に温かかったのです。

丁寧かつ上品な接客というイメージでしょうか。

しかも、それだけでなく、店員さん全員に、あくまでも食事を楽しんでもらうために最高級のおもてなしをしているといった雰囲気があるため、そこにはしっかりと店員と客という絶妙な距離感が保たれているのです。

何が言いたいかというと、最近では友達感覚なノリを醸し出す飲食店もあり(※いわゆるショップ店員ノリw)、確かにそのスタイルは店員と客の相性が合えば楽しいお店ということができるのですが、「この店員さん、なんだか馴れ馴れしいな」と思ってしまうようだと、来訪するのをためらうことにつながりますよね。そういう意味で、接客の距離感が絶妙だということなのです。

ちなみに、向かって右側、レジで座っているのがオーナーさん。雰囲気がどことなく池波正太郎さんに似ています。

厨房も広く、シェフの長く白い帽子にもこだわりを感じます。調理している様子を眺めながらカウンターで一杯……というのもやってみたいですね。

卓上アイテムが何気に豊富!

ウスターソースに濃い口ソース、醤油、こしょうに岩塩まで備えてあり、さまざまな味変を楽しむことができます。

お水も各テーブルにひとつ置かれているので、いつでも冷たいお水が頂けます。これも最近では見かけない光景になってきているのではないでしょうか?

うれしいサービスです。

赤白チェックのテーブルクロスに黄色のイス。

これが戦前の洋食屋さん然としたスタイルなのでしょうか?

店内をボーッと眺めているだけでも一杯呑れそうです。奥の冷蔵庫に美味しそうなお酒がたくさん陳列されているし!

もう、ランチの店じゃなくて、夜呑みの店でしょ、コレはー。

そして、何より衝撃的なのが、店内直結のエレベーター!

まさかの冷蔵庫横にエレベーターがあり、降りるとすでに店内という珍しいつくりなのです。

これがあることによって、ベビーカーでの入店が可能になっています。

池波正太郎が愛した「洋食大吉」。最後に、その魅力を先生の名文から引用させて頂き、シメといたしましょう。

ピカピカにみがきぬかれた調理場で、まっ白な調理服を着たコックたちがきびきびとはたらくさまが、表の入り口のガラス越しに見え、(これなら、うまいだろう)と、おもい、私は入って見たわけだが、期待は裏切られなかった

ちなみに、私から言わせて頂くならば、こういうことになります。

池波先生の名文に誘われて、(これなら、うまいだろう)と、おもい、私は入って見たわけだが、期待は裏切られなかった。

本のうしろに見えるのは、まさか池波先生のサイン……!?

本のうしろに見えるのは、まさか池波先生のサイン……!?

文・写真/伊勢新九朗
モデル/長女