昆虫食を継続的な文化にするためにも、地に足がついた街でお店を出したかった――昆虫食レストラン『ANTCICADA』オーナー・篠原祐太さんインタビュー【浅草橋の粋人】

いま、浅草橋で最もホットなスポットである昆虫食レストラン『ANTCICADA』。

念願叶ってコース料理を堪能した私たちは、食事終了後、オーナーの篠原祐太さんへのインタビューを敢行。篠原さんがこれまで歩んできた軌跡、これからのビジョン、そして、浅草橋という街に対する印象――興味深いお話をたくさん伺うことができました。

浅草橋で未知なる食体験! 虫のフルコースを味わえる『ANTCICADA』で大・大・大充実のディナーを満喫

「どうして虫はネガティブな印象を持たれるのだろう?」幼少期から抱いていた疑問

食事が終わり、お客様が次々と帰っていく中、店内には飼育しているコオロギの涼やかな鳴き声が響き渡っていました。
都内の中心地にいるとは思えない心地よさ。おいしいディナーを堪能し、コオロギの音色に耳を傾け、まさに夢見心地といった状態でした。
しかし、ここからが取材の本番。お客様のお見送りを終えた篠原さんに、出店までの経緯を伺いました。

昆虫食のコース料理については、こちらの記事でたっぷりご紹介しております♪

※公開後、【スポット・店舗】『ANTCICADAさま』のリンク貼付

篠原さんは東京都八王子市出身。高尾山のほど近くで生まれ育ったため、自然と触れ合う機会が多かったと言います。

「昔から虫が大好きで、暇さえあれば山や川に行って虫取りや魚取りをしていました。でも幼稚園では先生から『虫は汚いから持ってくるんじゃありません』と言われたり、テレビを見たら罰ゲームで虫が使われていたり。『どうして虫はこんなに嫌われるんだろう』というもどかしさや苛立ちがありました。魚は重宝されているのに、その差はなんだろうとずっと思っていましたね」(篠原さん)

 篠原さんは物心ついた頃から、手当たり次第、虫を食べていたそうです。

「お腹壊したり、毒に当たったことはなかったですか?」と尋ねると……

「アフリカで虫を食べたときは、2、3日喉がヒリヒリしていましたね(笑)。でも辛いという感覚はなくて、どちらかというと『面白いな、こんな反応になるんだ』という気持ちの方が優っていました」と笑っていました。

篠原さんの並外れたチャレンジ精神や探究心は、幼い頃から培われていたようです。

「シンプルに虫が好きだったんです。だから〝虫や害獣=ゲテモノ料理〟として扱われるのはとても寂しいことでしたね。フラットに見ると、虫だって大いなるポテンシャルを秘めた食物なんです。それをイメージだけで閉ざされてしまうのはあまりにもったいない。ちゃんと真っ当に昆虫食と向き合っていけば、絶対に虫や害獣の素晴らしさが伝わると思っていました」(篠原さん)

転機が訪れたのは、篠原さんが大学に進学してすぐのこと。19歳頃から、虫を食べていることをカミングアウトし始めたのです。

「実は大学に進学する気はなかったんです。すると親が勝手に願書を出していて(笑)。僕は親に『虫を食べている』とは言っていませんでしたが、なんとなく気づいていたみたいですね。それで『人と違ったものが好きな子にはちゃんとした肩書きが必要になる』と考えていたそうなんです。今思うと、親の教育方針にはとても感謝しています」(篠原さん)

ちなみに、篠原さんが進学したのは慶應大学。そこで少しずつ自分の趣味を打ち明けられるようになって、SNSなどで『みんなで虫取りに行こう』『昆虫を食べよう』と呼びかけ始めたそうです。

「最初は『そういうのやめてください』『気持ち悪いです』と言われることも多くて、結構落ち込みました。でもいつしか少しずつ輪が広まっていって、料理人の方やレストラン経営に携わる人とも仲良くなって『自分も拠点となる飲食店を作ろう』と思い至ったんです。地に足つけて発信していける拠点が欲しい。そうして見つけたのが、この場所でした」(篠原さん)

天才が天才を呼ぶ⁉︎ 集結した精鋭たちの取り組みとは

現在『ANTCICADA』を運営しているのは、篠原さんを含めた4人のチーム。
醸造・発酵の知識を豊富に持った山口さん(写真右)、多くの名レストランで研鑽を積んだ白鳥シェフ(写真左)、食材調達のプロ豊永さん(写真左から2番目)。皆さんは篠原さんの取り組みに賛同し、一丸となってお店を盛り上げています。

現在、お店で使用している発酵調味料は、試作品を合わせると約数十種類にものぼるそう。
各料理も全員で試食し、これまで食べたことのないような新感覚の組み合わせを日々模索していると篠原さんは言います。
「もちろんですけれど、失敗作の方が圧倒的に多いです。ですが、『なんだこの味⁉︎』『これは使えるかも』とみんなでチャレンジしている時間はとても楽しいですね」(篠原さん)

話は少し変わって、食事の際に聞いた話でとても興味深いエピソードがあったことを思い出しました。それは、同店では食材を廃棄することがほとんどないというお話。鯰料理でも、廃棄予定だったコオロギビールを活用して新たな料理を生み出すという画期的な手法を駆使していました。

「廃棄物を極力少なくするというのは、うちの店が掲げているひとつの目標でもあります。ラーメンで使ったものをコースに、コースで使ったものをラーメンに使用するなど、2次使用3次使用も可能な限り行っています。例えば『コオロギビール』を製造する過程で生まれたビールカスは、コオロギの餌にしたりもします。これが想像以上に食いつきが良くて、しかもコオロギの風味も格段にアップしたんですよ」(篠原さん)

トライアンドエラーの繰り返し。皆さんが途方もない時間と労力をかけて各料理を生み出していることを知りました。

「確かに、あらゆる面においてコストがかかっているなとは思っています。本日お出ししたデザートのフェモラータオオモモブトハムシの幼虫も、交通費や収穫時間を換算するとなかなかの高級食材ですし(笑)。でも、僕たちが念頭に置いているのはあくまでも〝おいしい料理をお客様に提供すること〟です。廃棄物削減やコストに関する問題は二の次。昆虫食を文化にするためには、やっぱり〝おいしい〟と思ってもらうことが一番だと思っているので」(篠原さん)

篠原さんが目標に掲げているのは、あくまでも〝昆虫食を文化として継承すること〟。実はこの目標と浅草橋が、大きく関わっていたというのです。

「浅草橋に店を出して本当に良かった」

「出店するにあたって、場所選びは非常に重要でした。最初は下北沢や三軒茶屋なども考えていたのですが、若者が集う街だとどうしても〝流行〟として捉えられてしまうところがあります。そんな中、縁あって浅草橋の物件に辿り着きました。その時『あ、ここは地に足がついている街だ。ここなら中長期的にお店を運営していけそうだ』と感じたんです。その直感は当たっていて、変な冷やかしで来店される方もいませんし、注目のされ方も自分たちが発信したいことをちゃんとキャッチしてもらっていると実感しています」(篠原さん)

2020年6月4日に開店してから1年が経過。常連さんも増え、春夏秋冬のメニューを一通り提供することができた現在、篠原さんは次なる目標に向かって歩き始めています。

「お店としては、ここからは外に向けての展開をしていきたいなと思っています。大きな企業さんとのコラボもしてみたいですし、新たな商品もどんどん開発したいですね。キッチンカーでのコオロギラーメン47都道府県行脚とかも考えています。あと、コロナが落ち着くまではまだ時間がかかると考えているので、出張レストランもやりたいなと思っています。それから、街とももっと深く強く関わっていきたいです。じっくり時間をかけて、街と共に店も成長できたら良いな、と」(篠原さん)

篠原さんのお話を聞いていると、こちらまでワクワクした気持ちになります。そして、浅草橋に新たな風が吹き始めたということを、強く強く実感しました。「浅草橋に来てくれてありがとうございます」と誠に勝手ながらお礼を伝えると、「こちらこそありがとうございます」とはにかむ篠原さん。その表情には、昆虫を山で追いかけていた少年時代の面影が残っていました。

「浅草橋に店を出して本当に良かった。この一言に尽きます」

なんともうれしいお言葉をいただき、この日の取材は終了。お腹も心も存分に満たされ、幸せな気持ちでいっぱいでした。

「浅草橋を歩く。」ともコラボイベントを!?

前述のように、今後は他のお店とのコラボレーションや、お客様たちと一緒に楽しめる食材調達や料理教室も実施予定の『ANTCICADA』。

今後のイベントもどんどん当サイトで取り上げたいと思っているので、興味かある方はぜひ『ANTCICADA』の公式SNSや、この『浅草橋を歩く。』をご覧ください♪

ANTCICADA HP

撮影/伊勢 新九朗
取材・文/牧 五百音