「洋食 一新亭」愛されて115年! 店主の優しいアイデアから生まれた欲張り“三色ライス”は必食の一皿

鳥越神社から大通りを挟んで南にすぐ近く。浅草橋のこの地に、3世代にもわたって100年以上続く老舗の洋食屋さんがある。

絶品の名物メニューを味わいながら、ご主人のお話を聞いていると、どうしてこのお店が長きにわたって地域の人々に愛されてきたのかが見えてきた。

一度と言わず何度でも通いたくなる、味も人も魅力的な「一新亭」でお昼をいただいた。

ご主人が撮影したレトロな東京の風景

店の暖簾をくぐると、4~5人掛けのテーブルが3つあるだけのシンプルでこじんまりとした店内。

そして壁には、昭和初期の東京の街並みを撮影したモノクロ写真が何枚も飾られている。

これらはすべて店主の秋山さんが撮影したものだ。

実はこの秋山さん、知る人ぞ知る有名な写真家でもある。

15歳の頃から写真を始め、70年以上にわたって主に東京の街並みや人々の風景をカメラにおさめてきた。その温かみのある作品は高く評価されており、これまでに何度も写真コンテストで受賞されたり、写真集の発売や展示会などもされてきた。

味わい深く、記録としても貴重な写真に魅了されてしまい、その場で写真集を購入させていただいた。しかも、直筆サイン入りである!

この夏にも新たに著書が出版されるとのこと。

生まれも育ちも浅草橋で、この辺りの歴史にもお詳しく、江戸っ子らしく気っ風のいい喋り口で語られる昔ばなしはどれも面白く、ついつい聞き入ってしまった。

これは!  ということで、今度改めてじっくりインタビューさせてもらうことをお約束していただいた。

こうご期待!

王道にして絶品の味!うれしさ3倍の“三色ライス”

老舗の洋食屋である「一新亭」のメニューは大きく分けて3つ。オムライス、カレー、ハヤシライスというどうにも悩ましいラインナップ。

そして、「そんなの選べない!」というあなたにうってつけのメニューが名物の“三色ライス”だ。3種類をすべて盛り合わせた欲張りな一皿である。

・三色ライス → 1200円

うかがった時刻はお昼の2時前後。

ちょうど空腹もピークに差し掛かっていた取材班は迷わずこちらを注文!

目の前に運ばれてくるや、大人でもワクワクが止まらないビジュアルにまず心をつかまれる。

大きなお皿にきっちり3等分に盛られたオムライスとカレーとハヤシライス……どれから手を付けようか、結局迷ってしまった。

最近では主流になりつつある、いわゆる“ふわトロオムライス”ではなく、チキンライスを卵で包みケチャップでいただく昔ながらのオムライス。

おそらく、老若男女で嫌いな人はいないであろう、豚肉などの具材がトロトロに溶け込んだシンプルでマイルドな辛さのカレーライス。

とろける牛スジとデミグラスソースの旨みが抜群にマッチしたハヤシライスは、3つの中でもとりわけ上品な味わいの一品。

この三色(三食?)を一言で言い表すならば、まさに「王道にして絶品」で異論は出ないはず。

あとから思い返してみれば相当なご飯の量だったはずなのに、気づいたら平らげてしまっていた……そんな夢中になれるランチ体験であった。

人柄がにじみ出る“三色ライス”誕生秘話

飾らずにただド直球に美味しさを詰め込んだ、そんな一品である三色ライスがどのように生まれたのか。秋山さんに聞いてみたところ……。

30年ほど前、お店のオムライスがテレビの取材を受けた時のこと。その評判を受け、一番遠いところだと北海道など、遠方からはるばる訪れてくれるお客さんが増えた。
その時に、お客さんから言われた「次はカレー、ハヤシライスもぜひ食べてみたい」という言葉を受けて、「じゃあ何度も遠くから来てもらうのは大変だし、いっぺんに味わってもらおう」と考案したのがこの三色ライスなのである。

まどろっこしいことが嫌いで人情味あふれる、いかにも江戸っ子らしいエピソードだ。

しかしながら、料理の味に加え、このような温かい秋山さんの人柄が結果的にお店のリピーターを増やしているのだろう。

浅草橋に愛し愛されるお店

今でも頻繁にテレビのオファーが来るという「一新亭」だが、馴染みのある人から以外の頼みは基本的にお断りしているのだとか。

「それでテレビを見たお客さんが急にドッと増えると、いつも来てくれてる常連さんたちが来られなくなってしまうから」と、あくまでも地域のお客さんファーストの姿勢を貫く秋山さん。

何にしたって人とのつながりを大事にする、その人柄が垣間見えた。

すっかりお腹も心も満たされて、帰り際にお店の外観を撮影しようとした際、同行してくれた生粋の浅草橋っ子である常連さん(※今度、「HUMANS OF ASAKUSABASHI」にて登場)が、「ここは秋山さんに君たちを撮ってもらおうよ」と、まさかの変化球なご提案が……!

ゴリ押しされた秋山さんは、少し照れながらも快く承諾してくださった。

撮影:秋山武雄

撮影:秋山武雄

80歳を超えてなお、現役の料理人であり写真家の秋山さん。その姿は男として憧れるかっこよさがあった。

お店も料理も下町の温かさにあふれた「一新亭」。ぜひ皆さんも、気取らずお腹を空かせて行ってみてはいかがだろうか。

店舗情報

「洋食 一新亭」
営業時間:11:30~14:30
定休日:土曜・日曜・祝日
お問い合わせ:03-3851-4029

文:小林
撮影:伊勢 新九朗