「『肉のハナマサ』の裏にボーリング場があった時代がありまして、そのころ、今の上海ブラッセリーがある場所で『ポアル』という名前の店をやってたんです」。
と、優しいオーラ満載で語ってくれたのは、この店のマスターの息子である遠嶋博道(とおじまひろみち)さん。その姓が示す通り、マスターは九州は大分のご出身で、はじめは、寿町で「フライパン」という定食屋を営んでいたんだとか。その後、浅草で二軒の立ち食い蕎麦屋を経営するなどを経て、39年前(2022年取材時)にこの地で飲食店を開業したそうだ。※ちなみに、「ポアル」とは、フランス語で「フライパン」をさす。
現在は、浅草橋の人気酒場「加賀屋」のあるビルの2階で、「ポアル館」1店舗のみの営業をしている(※このあたりの歴史についてはマスターと共に飲食の道を歩んでこられたホール担当の紳士がもっとも詳しいので、気になる方は呑みながら聞いてみよう)。
昭和歌謡流れる店内で出会う、日本全国の名物酒肴たち。再び〝惚れた〟酒場と出会ってしまい、すでに4度も訪問している伊勢が、「加賀屋」に続いて渾身のレビューを贈る。
目次
ランチで人気の食堂の夜の顔
ポアル館と聞けば、浅草橋で活動する人たちがもつイメージは「ランチ」ではなかろうか。
というのも、ここ、ランチのコスパが素晴らしく良く、しかも、料理の腕も間違いないため、「美味しいものをがっつりと安く食べたい」という人にはうってつけの店なのだ。
ランチレポートはコチラ↓
土曜もやってます!夜は居酒屋、お昼はボリューム満点の定番ランチメニューで大盛況の「ポアル館」と、思っていたので、「夜は居酒屋」と記事タイトルで書いているくせに、夜利用を一度もしたことがなかったのだが、1階の「加賀屋」があまりに大混雑をしていて入れなかったある日、ふと目にとまったメニュー看板に魅きよせられて、2階へと昇っていくと、まさかの吞兵衛天国が現出したのである。
よく見れば、店名看板にも「居酒屋」の文字が。そして、もつ焼きの加賀屋に並んで、もつ鍋を強調するのぼり。今となっては両店共に惚れているので、入口に立つとどちらに入るか迷ってしまうけれど、通常運転でこの通りの前に立ったら、間違いなく「加賀屋」の扉を開くだろう。
なぜならば、ポアル館はちょっと怪しいから!(笑)
しかも、2階というのはやはりハードルが高く、一見さんがトライするには何かしらの勇気がいる。
そう、だからこそ、私は渾身の記事を書く。
これを読んだ方は、今後、私と同様、両店の前に立てば、確実にどちらの店に入るか、その選択に迷うことになるだろう。
さぁ、すでに長文になることが容易に予測される「ポアル館」レビュー、まずは店内のメニューから見ていこう。
ということで、まず店内に入ったら、メニューをじっくり観察することで、ワクソワしてもらいたい。
「あれも気になる、これも気になる」と大騒ぎすること必至だが、ひとまず落ち着くために乾杯ビールを注文。こちらの店も、〝赤星〟なサッポロラガーが常備されているため、グビッと美味しく喉を鳴らしながら平静を取り戻そう。
まずは小手調べに、なんて、「枝豆」(380円)なんぞを注文すると、いわゆる「枝豆の美味しい茹で方」に一家言あるような、口内でプチッと弾ける感動的なひと口で出会う。
いや、もう、これ、勝利でしょ、ポアル館。と、小手調べでテンションが一気に上がる41歳痛風野郎。
大分出身の店主がつくる全国の美味しい酒肴たち
マスターは大分出身なのだけれども、なぜか店内には全国各地の名物料理の名前が……。
聞けば、「親父が好きなんですよね。自分で食べて美味しかったものをメニュー化してるんです」とのこと。なるほど、つまりは、ポアル館は「日本全国の味」をつまみに呑むことができる酒場でもあるということなのだ。
と、うだうだと御託を並べるのはここらへんにしておいて、このあとはとにかく美味しい料理の数々をご覧いただこう。
「ポテトサラダ」(420円)。シンプルな味付けながら、ビールが進むポテサラ。
「ぶり刺身」(800円)。食べ応えうれしい肉厚な刺身。身がひきしまっていて美味い。
大分名物「くじらベーコン」(680円)。昭和20年、30年代は「べーコン」といえば「くじらベーコン」であり、マスターにとっての故郷の味でもあるそうだ。吞兵衛たるもの、酒場にくじらベーコンがあれば避けては通れぬ酒肴だろう。
「もつ煮込み」(450円)。階下にある加賀屋の名物でもあるが、ポアル館のもつ煮込みだったいい味してる。
「静岡名物黒ハンペン焼き」(480円)。これが冒頭で私が食いついた一品。浅草橋で静岡おでんを提供する店といえば、「びんてじ」だが、そこの静岡おでんに登場する黒ハンペンとはまた違った味わいを堪能できるの食べ方だ。
びんてじレビューはコチラ↓
【浅草橋の人気酒場!】“静岡おでん”が美味し恋しい「びんてじ」を楽しみ尽くす。「玉子焼」(450円)。フワッフワの玉子焼も、ぜひ、食べて頂きたい。うなぎ入りは750円、明太子、ネギ入り、じゃこ入り、チーズ入り、トマト入りはすべて550円でご提供。
マスターのオススメ「納豆オムレツ」(580円)。と、ホームページに記載があるのだが、博道さん曰く、「へぇ、そうなんですね、それは知りませんでした!」、って知らなかったんかい!笑 という、妙にユルっとした雰囲気がまたグッとくる。
そして、納豆オムレツは、個人的にはかなりヒット! リピート確定の酒肴なり。
未知との遭遇!「あさりの天ぷら」(480円)は必食!
さぁ、いよいよ、お題のおつまみにご登場いただこう。メニューを見た瞬間、「あさりの天ぷら? それは食べたことない」と感じ、即座に注文。出てきてブツがコチラですよ、アニキ。これまで同行したすべての人が「美味い!美味い!」と絶賛する、「あさりの天ぷら」(480円)。
揚げたてのあさりは一粒一粒で「海~」を感じられるため、一皿頼めばだいぶ長持ちするうえに、なんならもう一皿追加できるくらいに飽きがこない。なんだ、この魔法のようなおつまみは!
別の日に来ても必ず頼む「あさりの天ぷら」、ご賞味あれ。
いたって普通のたくわん!? のような見た目だが、こちら、メニュー名を「キムタク」という(380円)。「キムチで漬けたたくわんなだけなんですけどね」と博道さんは言うが、その名をつけたマスターのキャラクターに拍手。普段はひたすら料理をつくっているのでまだお話したことがないのだけれど、間違いなく面白い方なんだうなぁ。いいつまみ!
「ラビオリ」(450円)。この流れでラビオリって!笑 しかも作り置きしているのか何なのか、「かるい酒の肴」なるコーナーでくくられているメニューで、サッと出てくるところも興味深い。これも美味しいよー。
「鯛ちくわの天ぷら」(480円)。ちくわってだいたいが、スケトウダラやサメ、トビウオ、ホッケなんかでつくられているようなのだが、ここでは「鯛」! 珍しいからこそ、メニュー名に「鯛」をつけるわけで、こちも一食の価値ありよー。
お得なオリジナルボトル「ぽある酎」
酒の種類は今どきの酒場に比べるとそこまで多くはなけれど、かゆいところには手が届くナイスなラインナップ。というか、ここに来たら、もうこれ一択でもいいくらい。
「ぽある酎(五合瓶l 25℃)」(1200円)。安い! ポアル館のオリジナルラベル焼酎で、大分の「ぶんご銘醸株式会社」とのコラボ焼酎。ザ・昭和なイラストと共に、ひらがなで「ぽある」と書かれているのもかわいらしい。
しかも、このオリジナル焼酎は、開けるごとにボトルに数字が書かれていく謎のシステムが。「10本開けてもらったら次のボトルはサービスというをずっとやってるんですよね」という、なんともうれしい特典がついてくるのである。私が通いたく気持ち、ちょっとおわかりになられました? スタンプカード系はすぐ紛失するので長続きしないのだけれど、こうやってお店側が覚えてくれているのであれば、喜んでそのサービスを受けようじゃないか! という気分にさせられる。
ボトルラベルに書かれているイラストに文言と同じものが店内にも飾られている。
「頭が悪かってんが 勉強ができんじゃってんが 一生懸命じゃった あんころ」
なんか沁みるじゃってんが。
気になる鍋物の正体は!?
冒頭にも登場した「もつ鍋」に「とんんちゃん焼き」とは何なのか? 三度通うことでその全貌を知ることができたのでご賞味あれ。
「もつ鍋」(1,700円)。こちらは見た目は想像通りのもつ鍋だが、ボリュームがとにかくすごい! にんにくとニラがたっぷり入っているため、スタミナがつくのは間違いない。〆には、飯、うどん、ラーメンが選べて各500円。
からの、気になって仕方なかった「とんちゃん焼き」(1,600円)。は、何なのかと思っていたら、なんと、薄型の鍋でホルモンを炒め煮ながら頂くスタイルの鍋だった。すでに調理は終わっているため、どちらかということアツアツのまま召し上がるための鍋仕様。
調べると、どうやら滋賀県高島市のご当地グルメらしい。
そして、これが、すこぶる美味い!
野菜もたっぷり頂けるので、食べども食べどもなかなか減らないため、これひと鍋で、ゆっくり酒を呑みかわせるという感動的な鍋だった。〆には、うどんセットが500円で。
その魅力、止まらず……
さすがにお腹いっぱいじゃー! と、思うこと勿れ。なんてったって、ポアル館の魅力はこんなものでは終わらない。
「いぶりがっこチーズ」(500円)。言わずと知れた秋田名物も、いい塩梅で吞兵衛の心を鷲掴む。
三度目に訪れた際は「菜の花のお浸し」も。野菜の中で最も好きな菜の花が置いてある店は、だいたい好き。
そして、これも衝撃的だった、「紅生姜天ぷら」(480円)。薄くカットされ薄揚げされた紅生姜がこれでもかという勢いで大量に! これには現場にいた吞兵衛一同、「なんだこれ!」と感嘆の声をあげ、「いや、もう、これあればひたすら呑めるでしょ」と、意地汚い吞兵衛たちがこぞってつまみにしていた。
4度目に訪れた際に注文した、「紙カツ」(780円)。揚げたてジューシーかつサックサク! これはいくらでも食える!
極めつけはコレ! マグロのあご焼き(880円)。顎ならぬ頬が落ちるとはこのことで、口内でとろとろほどけていくマグロの身が、何度も何度も我の杯を乾かしていく。こちらも絶対頼んでほしい一品!
シメのラインナップも堂々たるもので、こちらは「ナポリタン風焼きそば」(800円)。いいね、そういう、何かちょっと外してくる感じが絶妙にたまらない。「鉄板ジューシー焼きそば」(800円)も気になったので、次回はそいつをシメにしよう。
と、いうように、訪れれば訪れた分だけ、また新たな食との出会いがあり、「ぽある酎」ボトル10本達成は、そう遠くない未来にやってきそうな気がする。
「加賀屋」が満席の際はぜひ、お二階へ
そんなまだまだ「ポテンシャル、ハンパねぇ!」なポアル館は、こじんまりした店舗だが、なんとなく4人組が5組くらいは入るではないかというテーブル感。
窓際のカウンター席はひとりでも一杯呑れるため、ひとり晩酌をキメたい貴方も優しく受け入れてくれる度量がある。
椅子の形!w こういう形の椅子、もはやあまり見かけないと思うのだけれども、そんなところまで愛おしくなるのが「居酒屋POELE館」。ランチだけでなく、ぜひ、酒場としても利用もしてみてほしい。
浅利酒 メニュー漁りて 千鳥足
【ポアル館】
住所:東京都台東区浅草橋1-12-8 2階
電話:03-3864-6996
営業時間:11:00~14:30/17:00~23:00
定休日:日曜日
写真・文/伊勢 新九朗