浅草橋のお土産に本はいかが? 古本も新刊も扱う「書肆スーベニア」は新しい街の本屋さん

浅草橋駅西口を出て北向きに少し歩き、「福井町通り」よりひとつ手前の路地を入ったところに「書肆(しょし)スーベニア」はあります。

気負わずフラッと立ち寄りやすい雰囲気のある、シンプルですっきりとした佇まい。2022年の秋に開店したばかりで、まだまだ目新しさのあるこの“街の本屋さん”はいったいどんなお店なのか?

浅草橋のもう一つの本屋である「古書みつけ」の誕生にも関わった我が編集部としても興味津々。インタビューをしていく中で、その経緯やこだわりを聞かせていただきました。

いろいろな“本の仕事”を経て 浅草橋の本屋さんへ

お話を聞かせていただいたのは、店主の酒井 隆さん。

もともとは出版社に営業職として勤めており、そこで編集部の立ち上げなども経験されたそうです。その後、倉庫会社へと転職、今度は本の流通に直接携わります。

いずれは自身で商売を始めたいと考えていた酒井さんは一念発起の末、2017年8月に墨田区の向島で「書肆スーベニア」を開業しました。

ちなみに、「スーベニア」とは「お土産」と言う意味。

向島のお店は雰囲気のあるいい店舗で常連さんもいてくれたものの、今よりもずっと小さく立地も最適とは言えませんでした。実際に本の動きもオンラインでの売買がほとんどで、書店としてやっていくために新たな移転先をずっと探していたそうです。

その後、移転先候補を墨田区から台東区へ広げたことですぐ見つかったのが、現在の物件でした。


こうして2022年10月、この浅草橋の街に新たな本屋さんが誕生します。

浅草橋に移ってきた酒井さんは、「問屋さんの街、駅前でいうと飲み屋の街というイメージが強かったけれど、意外と生活の街なんだなぁと思っていて。そういった意味でも本屋さんにすごく向いている」と言います。

現に、向島の頃と比べて、足を運んでくれる人の数が目に見えて増えたそうです。

店頭に設置された100円均一の棚。掘り出しものが意外と多い。

お店が広くなり人通りも良いため、店頭に価格均一本の棚を出しているとそこで人が立ち止まり、入店してくれるケースが多いのだとか。お客さんの層も、地元のご高齢の方から子育て世代、週末には若いカップルの姿も見られるなど様々です。

 店内は壁や棚、蛍光灯も白を基調としていて、明るくて清潔感のある印象を受けました。

酒井さん自身、明かりを薄暗くして雰囲気のある小洒落た空間の本屋さんも好みだそうですが、スーベニアではいわゆる“街の普通の本屋さん”を目指し、誰でも入りやすいシンプルなつくりになっています。

通路にも余裕があり、近い本棚を捜索していても、ほかのお客さんとぶつかりにくい広さです。

古本と新刊 どちらも置くことのこだわり

従来の流通ルートではない独自の仕入れで品揃えを展開する、いわゆる最近増えてきた“独立系書店”。その走りでもある「書肆スーベニア」では、開業当初から古本と新刊本の両方を取り扱っています。

実を言うと、一冊一冊の単価は安いとはいえ、圧倒的に古本のほうが利益につながるそうです。それでも酒井さんが新刊を並べる理由をお聞きしました。

新刊コーナーには店主自らが選書したこだわりの棚となっている。

まずひとつは、古本だと置きたいものが必ず手に入るというわけではないから。ある程度のお店のコンセプトや方向性を示すためにも、酒井さんが決めた本を新刊で仕入れて並べています。

そしてもうひとつは、これまで自身が新刊を扱う仕事をしてきたことが大きいと言います。一冊の本が書かれ、製本され、販売されるまでの大変さを身に沁みて知っているからこそ、古本だけを扱うことには罪深さを感じてしまうのだとか。

出版から流通、小売と本に関わる様々な現場で働いきてた酒井さんだからこその流儀ですね。

また、お客さんの傾向としても新刊を買う人と古本を買う人は別れるらしく、そのどちらも取り込めるというのは強みのひとつだそうです。

酒井さんは普段から出版社のホームページを覗いたり、参考にしている書店さんのSNSをチェックするなどしてアンテナを張りつつ、膨大にある新刊本の中から、自身の興味に基づくものや馴染みの出版社が出しているのもの、そしてしっかり売れると自信を持って見込めるものを選んで入荷しているそうです。

大手の書店とは違い、仕入れた本を返本することはできないため、より目利きの腕が重要になってきます。

ちなみに、取材時での酒井さんのおすすめ本はこちら。

1冊目は、『けもの道の歩き方』(千松信也:リトル・モア)。
著者が現代に生きる猟師として、ヒトが自然サイクルの中にどう調和して生きるべきかを書いたエッセイ。現代社会の在り方を批判しつつも、丁寧な文章で書かれていて読みやすい作品です。

2冊目は、『バスラーの白い空から』(佐野英二郎:青土社)。
太平洋戦争時に人間魚雷の候補だったものの終戦によって生き延びた著者が、その後、仕事で海外を飛び回る中で想ったことを綴った随筆集。人の多様性を認め合える考え方は、読むと優しい気持ちになれる一冊。

この2冊は昔から好きでずっと置くようにしているとのことです。

また、古本の種類も多様で、お堅い本から新書や児童書、コミック本など、誰が来ても興味をそそられる本屋さんになっていました。

かわいくて 面白くて ロマンチックな栞

新刊棚の一角には、なにやら目を引くかわいらしい栞(しおり)が置かれていました。

「本で金欠」
「積みすぎ注意」
「本の重みは幸せの重み」

読書好きならば、思わず共感してクスッと笑ってしまう“本好きあるある”が書かれた栞。
添えられたイラストも含めて、作者は奥さんの彩子さんです。

もともと本と絵を描くことが好きだった彩子さんは、あるとき友人と一般参加の古本市に出ることをきっかけに、そこで出品しようと趣味の延長で、この「本好きあるある栞」を作成しました。

「本を家に忘れた時の絶望がすごい!」、わかる!(笑)

それがSNSで注目され、書店などに置かせてもらい販売してはどうかと勧められます。そうして紹介されたのが向島のころのスーベニアで、それが酒井さんとの出会いだったそうです。

今回お二人と一緒にお話させていただき、穏やかな酒井さんと明るい彩子さんは本当に素敵なご夫婦だと感じました。その出会いのきっかけが「本の栞」だというのも、なんだかロマンチックです。

癒し系の読書グッズとして魅力的な「本好きあるある栞」ですが、もしかすると本好き同士を引き合わせるパワーも秘められているのかも……。

一部、品切れ中でしたが、これが、本好きあるある栞のほぼ全容!

お気に入りの本が見つかったら、ぜひビビッときた栞も1枚一緒に買ってみてはいかがでしょうか。

街に愛される“普通の本屋さん”を目指して

以前の土地は、マンションに囲まれて人同士のコミュニケーションも乏しい印象だったそうですが、移転してからは向かいにある眉毛サロンの「KAZAHANA」さんと顔を合わせれば挨拶を交わしたり、大家さんもよく様子を見に来てくれたりなど、「今まさに下町で商売させてもらってるなって感じます」と酒井さんは言います。

浅草橋に来てまだ半年にも満たないですが、すでにこの街の“下町感”、温かみに触れているようです。

浅草橋を歩く。の編集長・伊勢も通う「KAZANAHA」の記事はコチラから↓

まつ毛・眉毛サロンのアイデザイナーと筋膜の専門家がタッグを組んだ「KAZAHANA(カザハナ)」で美容と健康を改善!

ちなみに、近所にある老舗のお弁当屋さん「もっくもっく」とは、彩子さんの方が子どものときから家族ぐるみで付き合いがあるそうで、それも偶然だったとのこと。酒井さんにとって何かと縁のある街なのかもしれませんね。

今後はまず、現在のレジ奥のスペースまで売り場を拡大し、ゆくゆくはスタッフを雇えるまでのお店にすることが理想だそうです。

紙の本が段々と数を減らしていくこの時代に、浅草橋で新たに誕生した“街の普通の本屋さん”は、これから街の人々にとって大切な生活の一部として根付いていくのだと思います。

おまけと店舗情報

ちなみに、以下は、編集長・伊勢が追記でおまけレビューをさせていただきます。

編集部の1階にある「古書みつけ 浅草橋」は「浅草橋駅」の東口方面にあり、「書肆スーベニア」は西口方面にあります。両店の間はちょうど浅草橋駅の高架下を通って浅草橋を横断していくことになるので、町の雰囲気を感じるにはうってつけの散歩道。ぜひ、どちらかのお店に起こしの際は、〝本屋のハシゴ〟をしてみてはいかがでしょうか?

編集プロダクションの下に書店が誕生!ブックライターが営む「古書みつけ 浅草橋」

10年以上にわたって本屋がなかった浅草橋に、2店舗も本にかんするお店ができるなんて、とってもステキじゃありませんか!

また、この町にはレトロな喫茶店やオシャレなカフェがたくさんあるので、好きな本を購入して、珈琲と読書を楽しむのもおすすめです。

ちなみに、編集部的に、浅草橋でもっとも読書が似合うスポットは、古民家カフェの「葉もれ日」

ぜひ、あわせてチェックしてみてください。

チキンカレーの辛さがいい!古民家カフェ「Coffee&Wood葉もれ日」の和モダン空間の心地よさ。

最後に、取材時に伊勢が購入した本もご紹介しておきましょう。

酒井さんオススメの1冊と、伊勢が大好物な山口瞳先生の「江分利満氏の優雅な生活」がまさかの100円棚に! こういうことがあるから、古本屋巡りってやめられませんよね。

「三びきのやぎのがらがらどん」は、愛娘への〝スーベニア〟です。

「書肆スーベニア」
住所:東京都台東区浅草橋4-20-2
営業時間:12:00〜19:00
定休日:月曜・火曜・水曜

書肆スーベニアHP

文:小林
撮影:伊勢 新九朗