デザビレ村長にしてモノマチ発起人・鈴木淳さんと“カチクラバシ”を歩く。【祝「モノマチ2022」開催企画】

「新御徒町駅」を南に出てすぐの所に、「台東デザイナーズビレッジ」はあります。

ここは、旧小島小学校の校舎をリノベーションして建てられた、新世代の情熱をもったクリエイターのための創業支援施設です。

今回は、そんな通称“デザビレ”村長の鈴木淳さんにインタビューをさせていただきました。

町をあげてのモノづくりイベント「モノマチ」の発起人でもある鈴木さんから、台東区南部という地域の面白さや、クリエイターを育てて町を盛り上げることへの熱意をお聞きしました。

鈴木村長とデザビレの歩み

鈴木さんは、もともと千葉大学工学部を卒業後、鐘紡に入社してマーケティングの仕事を担当しました。独立してからは、障害者や高齢者のファンションを普及させるNPO団体を設立します。

その後、廃校になった小島小学校の有効活用のために台東区が地域活性化と施設運営の企画によるマネージャー業務コンペを実施し、それに鈴木さんが採用されました。2004年にデザビレが誕生。村長として着任します。

デザビレは、創業やビジネス成長を目指す若手のクリエイターやデザイナーに安価でアトリエを賃貸し、同時に活動へのアドバイスやノウハウを伝授するインキュベーションです。

そして、入居資格にもあるように、将来的には台東区内で事業を行ない、地域産業の活性化に積極的なクリエイターを育成します。

創設当初は、入居者との意識のズレなどから問題も多く、運営は試行錯誤の連続だったそうです。

それが4年目あたりから軌道に乗り、成長意欲の高い人々が集まるようになると活躍する卒業生も増えて、今では入居倍率が6倍近くになるような活気と熱意にあふれる場所になりました。

※台東デザイナーズビレッジが気になる方はコチラ

“カチクラバシ”とデザビレの親和性

江戸時代から観光地として栄えていた上野・浅草、また、問屋街だった日本橋。そこで売られるお土産や商品を製造する町として、台東区南部は、“モノづくり”が盛んな地域になったと言われているそうです。

鈴木さんは、デザビレがあるこの一帯を、区外の人の「台東区南部」ではわからないという声で、よりキャッチーで上野・浅草にも対抗できる略称として、「御徒町」と「蔵前」の地名から「カチクラ」とネーミングしました。

のちに「浅草橋」も加えて、「カチクラバシ」とも呼ばれます。確かに語感が良くて印象に残りやすい呼び方ですね。

「モノ・マガジン」で特集された際にも「カチクラバシ」の文字が!

歴史的に工場や職人の多いカチクラバシですが、高齢化や下請け業の海外流出など、時代とともに業界も停滞してきています。

一方で、若い世代のクリエイターやデザイナーは、自身の作品を商品として製造、量産するにあたって彼らの助けを借りなければいけません。

発注書などの紙面上のやり取りだけでは、衝突してしまいがちな両者が直に交流する機会を設け、互いに尊敬し合い、協力するメリットを見出させるのも、デザビレの大きな役割だと鈴木さんは言います。

こうして独自性と高品質を兼ね備えた商品が生まれ、それがファンを獲得し、ブランド力が上がることで、次代の町、日本のモノづくり産業の活性化につながるに違いありません。

それを踏まえたうえで改めて、特に革製品やアクセサリーなどで高い技術をもった職人が集まるカチクラバシと、新進気鋭のクリエイターが集まるデザビレは、非常に相性が良いように思えます。

「モノマチ2022」のマップパンフレットのデザインからイラストまでを手掛けたのもデザビレ出身者。進士遥さんは、「浅草橋FANBOOK」の地図も担当してくださいました。

ちなみに、千葉県出身の鈴木さんですが、もともとは台東・墨田区あたりにルーツをもつそうで、浅草橋にある老舗の佃煮屋「鮒佐」は戦前から現在まで代々鈴木家の御用達なのだとか。

巡り巡って鈴木さんが台東区でデザビレの村長をされているのにも、なにか不思議な縁を感じますね。

[前編]160年余、守り続ける江戸前の佃煮。[鮒佐]5代目・大野佐吉さんインタビュー

モノづくり×マチあるき=モノマチ

「モノマチ」とは、人々にカチクラバシの地域を歩きながら、「モノづくり」と「町」の魅力を楽しんでもらおうというイベントです。

参加するお店や工房は仕事場を公開し、どのような作業をし、どんなモノをつくっているのかを人々に見てもらったり、ワークショップを行なったりします。

ゲストを呼び、出し物をしてお客を集めるイベントは数多くありますが、それではイベントの終了とともに、また人は流れていってしまいます。

モノマチが目指すのは、いち工房、いち店舗、いちクリエイターそれぞれが主役となってお客をもてなすことをコンセプトとし、その体験を通して町とモノづくりのファンを増やすことだそうです。

つまりは、先述したような、鈴木さんの考える今後の日本のモノづくり産業の在り方をそのまま体現したイベントとも言い換えられるのではないでしょうか。

そんな今年の「モノマチ2022」は、5/27(金)〜29(日)の3日間で開催されます。

公式ページ

デザビレ卒業生のお店はもちろん、古くから町を支えてきた職人さんたちも数多く参加しており、その仕事ぶりを間近で見られる機会は貴重です。

これまで、普段は寡黙に作業をするご高齢の職人さんが、訪れた人々に対してうれしそうに作業の解説をして、開催後には声を枯らしていた、なんてこともあったとか。

モノをつくる側としても、自分の仕事に興味を持ってもらうのは新鮮で楽しい刺激になるのでしょう。

鈴木さんが個人的に思い入れのあるお店を聞いてみたところ、デザビレにもほど近い三筋にある「carmine」(カーマイン)という革小物雑貨屋さんをあげていただきました。

ここはデザビレの卒業生のお店で、第1回モノマチの日にオープンされました。その後もイベントの中核を担い、率先して「職人さん見学ツアー」を開いたりなど、モノマチの歴史には欠かせない存在だそうです。

カラフルで目を引くスタイリッシュな革小物が取り揃えられており、店内はまるで現代美術館のような楽しさに満ちていました。

期間中は、インフォメーションセンターでもあるデザビレを中心に、いろいろなお店や工房、飲食店を周ってみてくださいね。

駅周辺や大通りだけでなく、路地にも足を伸ばしてみると素敵な出会いがあるかもしれませんよ。

モノマチのスタートは前途多難……

カチクラバシの町全体で開催されるモノづくりのイベント「モノマチ」。

クリエイターと職人とをつなぎ、地域に根ざしたモノづくりの発展を目指す鈴木さんをして、モノマチの発起は必然といえるかもしれません。

実は、2005年の夏には、このモノマチのプロトタイプ版ともいえる催しも行なっています。

つくばエクスプレスの開業に合わせて、「新御徒町駅」周辺の企業を何十軒と周って協力をあおぎ、デザビレを拠点に満を持して「ファッション雑貨ウィーク」を開催しました。

しかしながら、蓋を開けてみるとそもそも新御徒町で降りる乗客がほとんどおらず、ご本人曰く、「大失敗」に終わってしまったそうです。

その後、デザビレの施設公開を地道に行ない、町にも卒業生のクリエイターが増えてきたことで徐々に注目度を上げると、2010年にモノマチの第0回目ともいえるイベントの開催に至りました。

しかし、この年がなぜ“第0回”となってしまったのかというと……。

方々に尽力し、準備を整え、いざ開催というところまでこぎつけたのですが、最後の最後に“大人の事情”によって表立った開催がさせてもらえなくなってしまったとのこと。

あまりの不本意な結果に、翌2011年には並々ならぬ思いで第1回となるモノマチに取り組みます。

この年はスカイツリー開業予定の前年でもあり、町を認知してもらう絶好の機会でした。

しかしここで、今度はあの東日本大震災が降り掛かります。

一変して自粛ムードが漂うなか、東北への窓口である台東区がここで頑張らないでどうする! という思いで開催を決意したそうです。

様々な問題に直面しつつも、参加した店舗やクリエイターの熱意のおかげもあり、メイン開催地のデザビレと佐竹商店街は多くのお客さんで賑わいました。

第1回を終えた鈴木さんは、作り手に光が当たって町を元気にする手応えを確かに感じたそうです。

こうして同年の11月には、すぐに第2回を開催。

その後も試行錯誤を繰り返しながら開催し、第4回目では参加企業257社、クリエイター96名、飲食店52軒、来場者数延べ10万人という規模にまで膨らみました。

昨年、一昨年は、コロナ禍の影響でオンラインという形ではありましたが、その火は絶やさず、今年のモノマチ2022は待望の実地開催が予定されています。

走り出し当初は弊害も多く、手探りでなかなか上手くいかなかったモノマチ。

なぜ投げ出さなかったのかとお聞きしたところ、それがかえって鈴木さんの反骨精神を焚き付ける結果となり、熱意を持って立ち上げられたのかもしれない、と振り返っておられました(第5回目から運営を外れる)。

“カチクラバシ”は世界に誇れる町

「ニューヨークもパリもミラノもファッションの町で、そこで作ったモノを世界中の人が買いに来てくれて、それがまた世界中に広がっていくじゃないですか。ニューヨークって実は町なかのビルで洋服作ってるメーカーがいっぱいあるんですよ。(中略)パリもミラノもそうで、(日本で)それができるのは台東区だけだから。」

鈴木さんはそう言って、“カチクラバシ”が秘めたポテンシャルを説明してくれました。

確かに、世界的な大都市にあって、かつ、モノづくりの拠点となりうる町というのは希少な存在です。

家賃が安く、アクセスも良く、モノづくりの環境も整っているこの町は、都心で起業するよりも新しく仕事を始めるのに最適です。

そのうえで、デザビレは今後も新しいクリエイターを受け入れ、育てていく施設としてあり続けることが重要だといいます。

そして、いずれはこの町自体がが若い才能を育てる地域になり、日本のモノづくり産業の柱になってほしいと、大きな展望を語ってくださいました。

文:小林
撮影:伊勢 新九朗
写真提供:台東デザイナーズビレッジ

「モノマチ2022」情報

「モノマチ2022」
会期:5月27日(金)・28日(土)・29(日)
参加者店:約100組(店舗、メーカー、問屋、職人工房、アトリエ等)
E-mail:info@monomachi.com

●台東デザイナーズビレッジ
(当日はインフォメーションセンターを兼任)
アクセス:〒111-0056 東京都台東区小島2-9-10
電話:03-3863-7936

モノマチ

※「浅草橋を歩く。」を運営する「株式会社伊勢出版」と、その1階にある「古書みつけ 浅草橋」も出店いたします! ぜひ、遊びに来てください☆彡

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