今年の7月に開催された「浅草橋ハンソデ総選挙2022」。
浅草橋で毎年、〝ハンソデ店〟という企画を実施し続けてきた、ものづくりショップ「HI-CONDITION(ハイコンディション)」と「浅草橋を歩く。」のコラボ企画で、町の様々なお店のオリジナルTシャツを集めて展示会および総選挙を実施いたしました。
そんな記念すべき初回の優勝店は、浅草橋が誇る玩具店「長谷川商店」。
夏は、〝花火コーディネーター〟がいる店として、町だけでなく、全国から珍しい花火を求めてたくさんの人が集まってきます。
ということで、毎年テレビでも必ずとりあげられる浅草橋の有名店の、オリジナルハンソデ優勝を祝して、優勝ハンソデ秘話から知っているようで知らなかった情報を発信させて頂きます。
目次
夏にぴったりのハンソデが優勝!
14店舗のなか、もっとも多くの票を獲得したのがこちらのハンソデ。
「長谷川商店」らしさが全面に出た、爽やかな花火Tシャツに仕上がっていますが、どのような経緯でデザインされたのでしょうか。
「これは俺が参加しているバイクチームのロゴからもってきたんだよね」。
というのも、長谷川商店3代目の公章さんは、江戸ッ子ならではの粋で楽しいことが大好きな、この町のアニキ的存在。数年前から始めたバイクレースでは、チームのユニフォームを率先してつくり、「ユニフォームづくりに支援してくれた店のロゴを、バイクレースのスポンサーみたいに入れてみた」とのことで、そのときの長谷川商店のロゴが、「HASEGAWA SHOTEN」の英字なのだそうです。
ちなみに、ショルダーにプリントされている「Chicken Place」は、我らが柳橋を代表する人気酒場「焼鳥BARチキンプレイス」。こちらの店のマスター・高橋さんは、公章さんの1つ上の先輩で、バイク仲間なのだそう。もちろん、公章さん、チキンプレイスは常連で、わたくし伊勢も以前、連れて行って頂きました。
そして、ロゴは愛車にも刻まれています。
かっこいいじゃないですかー!
「長田くんのハンソデ総選挙も、言い出しっぺは俺みたいなもんだから、せっかくだし、このロゴを使って長田チームにデザインしてもらった」という経緯で、誕生したのがこちらの一枚なのです。
なにごとにも〝遊び〟の精神を大切にしている公章さんだからこそ、今回の私たちの企画にも「面白そうだからやろうぜ!」と賛同してくれましたし、〝遊び〟のノリで参加しつつもしっかり優勝をさらっていくあたりが、さすがだなと感じました。
さらに、総選挙後も店内で展示していたところ、お客さんで購入してくれた方も数人いたそうです。
浅草橋は玩具問屋の町でもあり、その精神を受け継いできているからなのか、バイクレースにしろ、総選挙にしろ、みんなで集まってワイワイと楽しむ〝遊び〟の心を大切にしているように感じました。
夏の花火は有名ですが秋や冬は何しているの?
そんな公章さんが率いる「長谷川商店」。冒頭でも紹介したように、夏は花火で超有名! けれども、10月にも入れば需要が激減するわけで、「その後、秋や冬の間は何してるの?」というのは、浅草橋ミステリーのひとつではないでしょうか?笑 とはいえ、先ほどから記載しているように、長谷川商店は「玩具屋」でもあるのです。
店名の上に掲げられた「ひな人形」に「五月人形」の文字がその答え!
本記事のタイトルにもあるように、「長谷川商店」には、「人形のはせがわ」というもうひとつの顔もあったのです。
そう、今ではイメージがわかないかもしれませんが、ひな人形も五月人形も〝玩具〟。
以前、老舗「久月」の記事でも紹介しましたが、もともとは持ち主に代わって厄災を引き受けてもらうために誕生したのが人形で、それが時代と共に子どもたちの玩具として親しまれるようになったのです。
「花火は10月頭くらいまでやって、その後はクリスマス関連の商品で、12月から2月いっぱいまではひな人形。そこから子どもの日までは五月人形というのが通年の流れ。人形は毎年、制作チームにお願いに行くので、店内を花火に切り替えたら、店の営業と同時並行で人形の仕入れにも行く」というスタイルで、「秋や冬は何してるの?」なんてだいぶ失礼なお話でした! めっちゃ多忙!!
人形をカスタマイズできるのが特徴
前述したように浅草橋には、人形の大手にして老舗「久月」だけでなく、さらに300年以上の歴史を誇る「吉徳」、そのほか長谷川商店と同規模程度の店舗もいくつかあることから、人形町以上に「人形の町」としても知られています。
つまりはそれだけ〝競合〟店が所狭しと展開しているわけなのですが、ここまで共存できてきた理由はあるのでしょうか?
「販売の仕方が違うんだよね。うちなんかは、仕入れから販売までも自分で行くから、そろえる人形にそれぞれの店のセンスが出てくる。さらに、顔と胴体、台、屏風、御道具まで、自分でカスタマイズすることも可能。そういったアドバイスというか、購入のお手伝いができるのもこの規模のお店ならではのサービスじゃないかな。うちのセッティングと、ほかのお店のセッティングと、どちらが好みかというのもあるしね」。
カスタマイズはいいですね!
そして、確かに、ひな人形自体、お値段は決して安くはないため、購入しようと考えている人たちにとってみれば、かなり大きなお買い物になります。だからこそ、人形を目的に浅草橋にやってきた人たちは、ほとんどがひな人形店のハシゴをして、じっくりと見定めるそうなのです。
「長野から子ども預けてわざわざ浅草橋に来たお母さんもいたよ。最初うちに来て、その後ガーッとあらかたの店をまわってからまた14時くらいにきて、これにします、と」。
なるほど、まさに「人形の町」にふさわしいエピソード。もしも、周りにひな人形をお求めの方がいましたら、ぜひ、「ちょいとおいでよ、浅草橋へ」と声をかけてみてください。必ずや、その方が求めるひな人形が見つかるはずです。
雛人形は子どもたちの躾にも役立った
浅草橋という町にはあふれている「ひな人形」。
とはいえ、時代は少子化まっしぐらなわけで、編集部的にはやはり、「これだけ混在していて大丈夫なのかな?」という、ちょっと意地悪な疑問がわいてくる。
すると、「ひな人形もこれからどんどん厳しくなるよ。花火だってそうだよ。やる場所がないってさ。ただ、それでも、いまだに自分の親や祖父母たちが代々、節句を大切にしてきている様子を見てきた子どもたちは、その精神を引き継いで人形を求めに来てくれるよね。そういうご家庭はまだまだたくさんある」。
「それこそ、あまり今には伝えられていないかもしれないけど、ひな人形は躾と遊びをセットでまかなえる。飾りながらものの扱い方を教えたり、飾ったあとは、一か月間、おままごと遊びを楽しめる」。
さらに、久月の記事でも紹介しましたが、「早く仕舞わないとお嫁に行けなくなってしまう」は、「しっかり片付けをしよう」というメッセージが込められています。〝身を美しく〟と書いて「躾」であるように、飾って遊んで片付けることで、人としての身だしなみ、礼儀、作法を学ぶことができるのですね。
「御道具なのかを壊してしまったり、ひな人形を壊してしまったりしたときも、『あーあ、壊れちゃったね』ではなくて、『お人形が貴方の代わりになってくれたんだよ。ありがとうをしようね』と、感謝の気持ち、優しい心を大切にする精神を体感できる。すべてに意味があった。少しでもそういったことを知っていれば、次の世代へと引き継いでいこうという想いが生まれる」。
公章さんには、娘さんがいるのですが、なんと誕生日が3月3日。そして、お名前が「雛」。
もはや、長谷川商店に生まれるべくして生まれてきたような申し子ですが、そんな雛さんも、一人暮らしをしながら毎年、自分のひな人形を玄関に飾っているそうです。
きっと雛さんも、ひな人形に込められたメッセージと共に、日本の伝統を次の世代へと語り継いでいってくれることでしょう。
3代目・長谷川公章が取り組む町づくり
最後に、公章さんと町とのかかわりをご紹介します。
今年、代々浅草橋で商売をしてきた公章さんを中心に、浅草橋に「浅草見附会」という商店街が発足しました。
「浅草橋って、人形屋もそうだけど、飲食店も含めて横のつながりがあまりない町だった。だからこそ、10年以上前から、鮒佐の大野さん(※公章さんの2つ上の先輩)と一緒に、そういうつながりをつくるための商店街みたいなものができないか考えていた」。
そうして誕生したのが、「浅草見附会」で、第一のプロジェクトとして、会員を募ってホームページを作成。
浅草橋エリア、蔵前エリアを中心に、「新名称 橋蔵MAP」という地図も制作しました。
「町の人たちも結構、浅草橋、このままじゃヤベーぞ! とは思っていて、なので、エリアでギュッと団結することで、町の情報を発信して、人が集まってくるような町にしていくことが、ここで商売をやっている俺らの課題。浅草見附会がそういう存在になればいいなって」。
中心となるのが、昔から町で商売をしてきている老舗チームなので、会員を募ったところ、あっという間に賛同者が集まり、飲食店から小売り店にホテル、カラオケ、銭湯まで、浅草橋で活躍するありとあらゆる店舗が名を連ねています。浅草や上野に比べて観光スポットがないという浅草橋ですが、当サイトがこれまでご紹介してきたように、浅草橋は丸一日いても楽しめるスポットが多数存在しています。今後、公章さんの言うように、浅草見附会が中心となって浅草橋を盛り上げていっていただけたら嬉しいですね。
「ま、それを早めに若い世代にバトンタッチして、俺はバイク遊びを楽しみたいけどね」。
と、飄々と語るところも公章さんらしさ。アニキ、これからもいろいろな〝遊び〟で引っ張っていってくださいね。
文・写真 伊勢 新九朗
「浅草橋ハンソデ総選挙2023」参加店求ム!
第1回目だった「浅草橋ハンソデ総選挙2022」。今年の参加店は14店舗に留まりましたが、今後は町の夏の風物詩を目指して、エントリーするお店を増やしていきたいと考えています。第一回目の様子など、以下の記事で確認できますので、ぜひ、覗いてみてください。
〝遊び〟で町を盛り上げる。我らも大いに賛同します!