予約困難店であり、かつ街のVIPたちがこぞって足しげく通うという噂のワインバー「水新はなれ 紅(ホン)」。聞くところによると、ワインと街中華のマリアージュを楽しめるという、一風変わったスタイルのお店のようです。
「なかなか行く機会はないかな……」と思っていたら、なんとこの度、編集長が手腕を発揮し席を確保してくれたとのこと! これは行くっきゃない。ということで、朝からなにも食べず、万全の状態でお店へと向かいました。
目次
一流ソムリエが営むシックでゴージャスなワインバー
到着したのは、大通りから路地に入ってすぐの場所にあるこちらのお店。シックな佇まいの外観からは、気品と風格が漂っています。
少しばかりの緊張感を伴い店内に入ると、店主が「いらっしゃいませ!」と明るい声で出迎えてくれました。
オーナーソムリエの寺田泰行さんは、名だたるレストランで研鑽を積んだ一流のワインソムリエ。グラスを磨く手さばきを眺めているだけで惚れ惚れしてしまいます。
「中国では、赤ワインのことを〝紅酒〟といいます。店名はそこから名付けたんですよ」
同店は、寺田さんが厳選した一級品のワインとともに大人気中華料理店「水新菜館」のお料理が楽しめるワインバー。
ふたつのお店は連絡通路で繋がっていて、「水新菜館」から出来たてのお料理が運ばれてくるというシステムになっています。
「水新菜館」の魅力をたっぷりご紹介した記事がありますので、参考にご一読いただけますと幸いです♡
同店で取り扱うアルコールは基本ワインのみ。お店には、約300種類ものワインが取り揃えられています。
「By the glass」は毎月テーマが替わり、季節に応じてフランス、南アフリカ、スペインなどの有名生産地ごとに銘柄を揃えるのだそうです。
ワインの種類も豊富ですが、お料理も負けず劣らずのラインナップ。「ワインはボトル? グラス?」「お料理はなにをオーダーする?」悩みに悩んでいると、寺田さんがおすすめ料理とそれにあわせたグラスワインのペアリングを提案してくれました。
もちろん我々はその案で即決! 寺田さんに身を委ね、めくるめく魅惑のディナータイムに突入いたします!
スタートはシャンパンから♪ 序盤から感動の連続!
同店では、ビールではなくシャンパンで乾杯するのが定番スタイル。
今回用意していただいたのは「Damien Hugot Brut Blanc de Blancs (ダミアン・ウーゴ ブリュット ブラン・ドゥ・ブラン)」という華やかな香りのシャンパーニュです。
最初に登場したお料理は、「クラゲの冷製」と「葱油鶏 蒸し鶏のネギ風味」。蒸し鶏には大量の胡椒がかかっており、ビジュアルのインパクトも抜群です。
お料理を運んでくれるのは、以前当サイトでもご紹介した「水新菜館」のオーナー・寺田規行さん。寺田さんの軽快なジョークも楽しみつつ、ディナーを楽しむことができるのです。
【浅草橋の粋人】最高水準のおもてなしで、来客者に美味しさと感動と驚きを提供する名物店長 中華料理店『水新菜館』オーナー・寺田規行さんインタビュー
もうおわかりとは思いますが、「紅」のオーナーは「水新菜館」のオーナーの息子さん。2人は息の合った掛け合いで、互いの店を行き来しながら共に両店を盛り上げています。
「うちと水新菜館との大きな違いを挙げるとしたら〝ハーフサイズで注文できること〟と〝私がお客様に取り分けること〟ですね。お客様にお食事を心ゆくまで堪能していただきたいという想いから、このサービスを実施しているんです」
優雅な気分でいただくワインとお料理は美味しさも倍増。スタート早々、幸せな気持ちが満ち満ちてゆきます。
2品目は、人気の「小籠包」。タレが入った小皿にそのままインし、ショウガを載せて一気に頬張りました。
熱い! けれどその熱さも旨味になっています。
小籠包に合わせるのは、ムツバネという珍しい品種のブドウを使用したジョージア産のオレンジワイン「STORI MARANI(ストリ・マラニ)」。白ブドウを赤ワインのように仕立てて製造しているため、独特の風味を生み出しているのだそうです。
「ジョージアには『ヒンカリ』という小籠包に似たグルメがあるんです。それを参考に、ペアリングをしてみました」
寺田さんの豊富な知識をたっぷり楽しめるのも同店の醍醐味。トークを聞きながら舌鼓を打っている私の隣では、編集長がこのワインの美味しさに悶絶していました。
「甲殻類は大丈夫ですか?」とのお声がけに頷き、次に登場したのは「ソフトシェルシュリンプ」。
脱皮したばかりの海老を殻ごと揚げた、サクサク香ばしい一品です。
8年熟成した白ワイン「Sancerre “Le Paradis” Alphonse Mellot (サンセール ル・パラディ アルフォンス・メロ)」との相性も抜群。
〝パラディ(楽園)〟はまさにこの空間を意味しているかのよう……。
ごぼう料理やシェリー酒も!珍しいグルメ&ワインが続々登場
寺田さんのサーブのタイミングは絶妙。こちらのペースを見計らい、ほどよいタイミングで次のワインを用意してくれます。
4杯目の白ワインは「Nicolas Joly Clos de la Bergerie(クロ・ド・ラ・ベルジュリー)」。〝自然派ワインの帝王〟と称されるニコラ・ジョリーが手がける逸品です。
そして、そのワインとともに味わうのが「鶏肉の牛蒡の煮物」。
中華料理でゴボウって珍しいなあ、なんて思いつつひとくち頬張ると……驚くほど風味豊か。大げさなようですが、大地の力強さを舌で感じることができるのです。
ナチュールワインと組み合わせることによって、その美味しさは一層際立ちました。
感動冷めやらぬ中、次に寺田さんが取り出したのはシェリー酒「Pemartin Oloroso(ペマルティン・オロロソ)」。
「シェリー酒もワインの一種なんです。長期熟成することで芳醇な香りが生まれ、紹興酒のようなテイストになるんですよ」
シェリー酒のお相手は、中華料理の定番であり、お店の看板商品である「イベリコ豚の酢豚」。
美味しいに決まってます。絶対に美味しいんです。食べてみると、その想像をはるかに上回る美味しさに出合いました。
ペアリングもいよいよ終盤。〆はやっぱり……!?
ここからは赤ワインの出番です。「NAPA GLEN CABERNET SAUVIGNON (ナパ・グレン カベルネ・ソーヴィニヨン)」は、味も香りも濃厚。
ワインだけでも十分満足感を得られる飲みごたえ抜群の一品です。
濃厚なワインには濃厚な料理を。ということで、ペアリングするのは「回鍋肉」。油と味噌のコクとワインの相性は言わずもがなでした。
と、寺田さんからは「あとは、〆のお料理とデザートで終了です」とのお声がけが。
口福な時間も、あと少しとなりました。
〆のお料理に合わせるのは「SAVIGNY LES BEAUNE PREMIER CRU CHAMP CHEVREY TOLLOT BEAUT(サヴィ二ィ・レ・ボーヌ プルミエ・クリュ シャン・シュヴレ トロ・ボー)」。上品な酸味と、滑らかな甘みのバランスが◎な一級品です。
〆はもちろん、「水新」一番人気の「あんかけ焼きそば」。素晴らしきペアリングのラストを締めくくるに、これほどふさわしいお料理はありません。
美味しさは知っていたはずなのに、食べてみるとやっぱり感動……。まだまだペアリングを楽しんでいたいと名残惜しい気持ちが膨らみます。
デザートは、「マンゴーアイス」。スイーツももちろん、ワインとのペアリングを楽しんで味わいます。
「Castelnau de Suduiraut(カステルノー・ド・スデュイロー)」は、濃厚で甘みが強い貴腐ワイン。
最後の最後まで考え抜かれたペアリングに、ただただ感服でした。
食事を終えて……
大満足のディナーを終え、お支払い金額を見てビックリ。こんなに上質なワインをたらふく飲んだのに、驚くほど良心的なお値段でした。(お支払いは編集長が担当。ごちそうさまでした!)
「ここはもともと親戚が住んでいた場所なので、家賃がゼロ。加えて、実質1人でお店を運営しているので、人件費がかかっていないんです。その分、お客様に還元できたらと思い価格設定を低くしています」
お話をうかがっていると、店じまいを終えたお父様があいさつにきてくださいました。
お店で過ごしていてなによりビックリしたのが、おふたりの仲の良さ。阿吽の呼吸で互いを助け合い、洗練された空間の中でも下町らしい和やかな雰囲気を醸し出していました。
「いずれは、『水新』の看板を受け継ぎますが、父にはまだまだ現役で頑張ってもらわなきゃいけません。しばらくはこのスタイルで、自分のペースで楽しんでいけたらと思っています」
革新的なお店なのに、懐かしさも感じる「水新菜館はなれ 紅」。今後さらに人気を博し、浅草橋を代表するお店になることは間違いありません。
「現在は座席を減らしての営業ですが、状況が落ち着いたら座席数を元に戻す予定です。そうなったら、今より予約が取りやすくなるんじゃないかな」と寺田さん。
頃合いを見計らって、ぜひ予約してみてください!
撮影/伊勢 新九朗
取材・文/牧 五百音