桜色の豚しゃぶは必食!浅草橋にひっそり佇む隠れ名店「克賢」完食レポート

2023年4月某日。

久しぶりに浅草橋に降り立つ。ガード下のにぎわいは戻ってきているようで、コロナ禍で閑散としていたであろうころを想像すると、現在はだいぶにぎやかにみえるのではないか。

考えてみれば、浅草橋に飲みにくるのは3年振りだ。

2023年になり、コロナによる制限された生活から解放されても、特に飲みたいという欲もなくなっていたが、編集長から「この日空いていますけどどうですか」と聞かれ、眠っていた飲酒欲がムクムクと起き上がり、当日には夜道をいそいそと待ち合わせの店へと向かっていた。

西口方面から福井町通り方面に向かって歩いて行くと、駅前の賑やかな雰囲気から閑静なオフィス街へとうって変わる。その中の一軒が、筆者のこれまでの価値観を180℃変えてしまった、豚しゃぶの名店「克賢」である。

キャッチコピーは「九州食材と豚肉料理専門店」

あぁ、このフレーズだけで垂涎……。さっそくいただいていこう!

寡黙な店主が腕を振るう絶品コース料理とお酒

編集長と合流し店内へ向かう。店内は様々な焼酎の瓶がズラッと並び、左右の壁には「克」と書かれた赤いラベルが貼られているのが壮観だ。

他にも色々な飾り付けがされており、編集長が外観の写真を撮りに行っている間に興味深く拝見させていただいた。店の雰囲気は静かで落ち着いていて、仕事の接待やデートなどにも十分使えそうに感じた。

撮影から戻ってきた編集長が、「南九州コースをお願いしてあります」と筆者に告げる。詳しいコース内容は後述しているので割愛するが、お店の三本柱の豚しゃぶ、さつま揚げ、馬刺しを含む全七品で構成されている。

克賢は、南九州の宮崎と鹿児島の二つの県をベースに料理が作られている店だ。お酒も店主が料理と合うものを選んだ銘柄が並ぶ。その中から最初は二人とも生ビールをお願いする。

乾杯をすると、すぐに一品目の馬刺しが出てくる。薬味も卵黄も一皿の上に盛られた馬刺しには、甘辛いタレで味つけがされている。一切れを取り白髪ネギと青ネギを乗せていただく。「美味い」。

次は卵黄をたっぷりつけて食べる。ビールが進む。タレが甘辛いのにあっさりしていて食べやすくて驚いた。肉質もギュッとしているが柔らかく、二人して、「これ美味いっすね」とバクバク食べる。いちいち馬刺しを取って醤油につけて薬味を巻いて食べるという行為が面倒くさいと思っていた筆者には、うれしい食べ方だった。

一品食べてわかる「絶対間違いない店」だと。

一度は食べてほしい桜色の豚しゃぶ

我々が座る席のテーブルにやや右側(筆者から見て)に鎮座する七輪と鉄鍋。中には湯気の出ている出汁がなみなみと入っている。入店時から置かれていたこの鍋の出番が来た。

二品目は本日のメインである豚しゃぶが出される。真ん中に山のように盛られたネギに周りには豚肉が敷かれている。

これが筆者の持っていた豚しゃぶの概念をブッ壊してしまうとんでもないものだった。

まず「出汁を沸騰させない」。普通の豚しゃぶならボコボコ沸騰させてしまいがちな出汁だが、克賢では入店から退店までこの鉄鍋に入った出汁は一度たりとも沸騰せずそこに在り続けていた。その店主の妙技に二人とも非常に感心した。

次に「肉は6〜7秒出汁にくぐらす」。トングで肉を取り、出汁に投入する。店主曰く、「しゃぶしゃぶは洗濯するじゃぶじゃぶという音から来ている(諸説あり)からじゃぶじゃぶ泳がせて」と言われ、とにかく肉を心の中で7秒数えて泳がせる。すると、肉が綺麗なピンク色になり食べ頃を迎える。肉を小皿に置いたらネギをさっと出汁に通す。

小皿に入ったタレにつけて食べる。柔らかくしっとりしているけれど、肉の食感もきちんとあり、ムチっとしている。豚肉の旨みと甘み、ネギの清涼感、タレの塩味(えんみ)、これらが一体となって繊細で優しい味わいが生まれる。筆者が今まで食べてきた豚しゃぶとは……と思ってしまうくらいの感動を与えてくれた。

中年二人が、「美味すぎる!」と興奮しまくりでがっつく。味変で楽しめるようにもみじおろしがあるが、こちらは結構辛いので苦手な人は量に注意。酒のつまみとしてならパンチがあり最高。

このタレはポン酢なのだが筆者はポン酢が苦手で、「タレはポン酢のみかぁ」と思っていたが、克賢のポン酢は市販のものを調合して味を整えてあり、全く酸味がなく苦手な人でも引っかかりなく食べられると思う。店主の味へのバランス感覚が素晴らしいと感じられるものになっている。

メインはもうひとつやってくる

三品目がやってくる前にお酒の追加をしようと思い店主に尋ねると、克賢では当初、宮崎と鹿児島のお酒で焼酎とビールのみにしていたが、お客さんの要望が多かったため、日本酒やワインなどのラインナップを増やしたとのこと。

それならば焼酎をとメニューに目を通すと、奇しくも克賢の頭文字と同じ漢字の焼酎が目についた。その焼酎は「克」。この克は焼酎ブームを巻き起こした「魔王」「村尾」「森伊蔵」の魔王の前村貞夫杜氏が造り上げた銘柄だ。ロックでいただく。グラスになみなみと注がれた焼酎は、香りは豊かで口当たりは飲みやすく芋焼酎が苦手な人でも美味しく飲めそうなくらいクセがない。

焼酎で口を湿らせていると三品目のさつま揚げが提供される。手作りのさつま揚げはアスパラ、干しエビ、チーズの三つだ。さつま揚げはムチムチの歯ごたえと魚の風味がする。アスパラはシャキシャキとトロリと二つの食感を楽しめる。干しエビは香ばしく、チーズは濃厚で酒の肴にも小さい子どもにも喜ばれそうな味だ。そのまま食べてもよし、九州の甘い醤油につけて食べてもよし、お好きな食べ方でどうぞ。

ここで店主のご厚意で熊本は山鹿の菊鹿ワイナリーの白ワインを出して頂いた。香りがリンゴのようなフルーツ臭がして味は酸味が弱く、甘さが強めなのに後味はすっきりしていて非常に飲みやすく美味しい。

四品目の鳥つくねと野菜も届く。

舞茸、えのき、水菜、油揚げに鳥つくね。

つくねは自分で大きさを決めて入れるタイプで、つくねを入れてから野菜などで蓋をするようにして煮込んでいただく。

野菜、つくねも当然ものすごく美味しかった。

五品目は箸休め的な位置付けの沢庵が登場。関東人からしたら沢庵は塩漬けの黄色いものだと思うが、この沢庵は味噌漬けの茶色い沢庵なのだ。香りは塩漬けの沢庵の香りと味噌の香りがし、味は甘さが強く後からしょっぱさを少し感て黄色い沢庵に慣れている筆者は思わず面食らってしまった。

六品目に入る前に「克賢」の名前の由来を伝えておきたい。店主は、豚しゃぶ店の前にとんかつ店を営んでおり、その店のオープンの年にお子さんが誕生。その子の名前が「けんたろう」「かつ」「けん」を合わせて「かつけん」となり、とんかつから豚しゃぶに営業形態が変わったときに、今の店名の「克賢」へと変更した。

なぜこんなことを書いたのかというと、六品目が「とんかつ」なのだ。そしてこれが、今はなき「かつけん」のとんかつが味わえるもう一つのメインだからだ。

部位はヒレ。衣はしっかり立ち香ばしい。ザクッとした衣、肉はしっとり、柔らかく、甘い。何もつけずとも美味しく、ソース、からしをつけても美味しい。まさしく絶品だ。

向かいに座る編集長も、「このカツ美味すぎる」と唸る。この記事を見てとんかつを食べたいと思った方、単品での提供はないので、コースを頼んで是非とも味わっていただきたい。

するりと入ってしまう〆

美味しい宴もいよいよ最後になる。〆の時間だ。ごはんとうどんから選べるが、筆者はうどんを推したい。なぜならうどんが紫芋のうどんという変わり種だからだ。

見た目のパンチ力が凄く、うどんのことで話題が尽きない。味のほうは普通のうどんだが、麺は稲庭うどんくらい細くつるりと入っていく。中年の筆者は六品で満腹気味だったがこのうどんは軽く食べられてしまった。

最後に、編集長が最初にメニューを見た時から気になると言っていた「オレンジワイン」を注文したのを少し分けてもらう。甘みの強い飲みやすいワインだった。

料理の提供が終わって店主に話を伺ったことをまとめる。

店主一人のお店なので、基本的に完全予約制になっているが、席に余裕があれば当日でも30〜60分前に連絡をしてみると入れるかもしれない。

飛び込みで来店されても前述した通り、一人で営業しているので余裕がなければお断りさせていただくこともあり。

その他にも色々楽しい話を聞けたのだが、気になる方はお店に足を運んでみてほしい。最初は店主の寡黙な感じに一歩臆してしまうこともあるかもしれないが、いざ話してみると気さくで何でも答えてくれるような優しい方なので、勇気を出して声を掛けてみよう。

湯気愛し しゃぶしゃぶ泳ぐ 桜色

文:西川雅樹
写真:伊勢新九朗

「克賢」公式サイト

住所:東京都台東区浅草橋5-5-1
昼営業:10月より再開
夜営業:予約制 (当日もOK!19:30迄お電話お待ちしてます。)
※月曜~土曜17:30~22:00(最終入店20:00、受付19:30迄)
※ご滞在は3時間迄。
※ネット予約は4名様迄。5名様以上はお電話にて承ります。
定休日:日曜・祝日 (2日前迄の事前予約で営業致します。10名様より、貸切にて承ります。お電話にてご相談下さい)。ランチ営業は、水曜のみとなります。

克賢のあとにハシゴ酒

店を出て少し進むと編集長が、「ここ結構良い店ですよ」というので、「博多の酒場すっぴん」に入る。

レモンサワーの大きさに驚きつつも、活気のある大衆酒場の居心地の良さに終電近くまで腰を据えてしまった。

「好いとぉとよぉ」って言われたい!博多美人が出迎える浅草橋「すっぴん」の魔力

美酒美食に満足したおじさん二人は、夜の浅草橋の街へと歩を進めるのであった。