会社の近くの行き慣れたパーキング。
日が沈み帰る頃になると、温かな光が漏れている一軒のお店がいつも気になっていた。
ガラス越しに見えるお客さんの笑顔。
何のお店なんだろう、ちょっと入ってみたいなぁ……なんて思いながらも、パーキングを左折して帰り道を走るだけだった。
「CONAって、イタリアンのお店なんだけど」
編集長に飲みに誘われ、場所を検索したらまさかのあの店だった。
もっと早く足を運んで見ればよかったなぁ。
気軽に楽しめるピザにイタリアン、そして、種類も豊富なワイン。
この日の帰り道は満員電車だったけれど、どんな日の帰り道よりも満足感にあふれていた。
白熱灯がぽうぽうと灯るレトロな雰囲気
「元は呉服屋だったんですよ。それを改築してオープンしたんです」
店内に入ると、すでに何組かの客で賑わっていた。
カウンター席の奥はピザを焼く窯があって、すでにいい匂いが空腹をくすぐってくる。
小さな螺旋階段を上がると、二階席は広めのテーブル席。
茶系で統一された店内は温かみがあり、オープン5年目とは思えない落ち着いた過ごしやすい雰囲気がうれしい。元は呉服屋であった場所が、ここまでいい雰囲気に仕上がっているのは、この店をつくった人たちのインテリアのセンスが良いからなのだろう。
何を食べようか。ワクワクしながら、さっそくメニューを見て驚く。
フードメニューは500円ばかりで、600円、最高で800円ととてもリーズナブルなのだ。
そして、なんと31種類もあるピザはALL500円!
「牛バラ肉の赤ワイン煮込みは人気ですね」
お通しの柿の種(数種のナッツを添えて)を受け取りながら、店員さんにオススメを聞き、迷わず即断。お肉はやっぱり食べたい(空腹度はMAX!)。
いぶりがっこ好きな編集長は、メニューの「いぶりがっこ入りポテトサラダ」を見て喜びながら注文。自家製とあったらやっぱり気になる「自家製ピクルス」に、「タコの唐揚げ」も続けてオーダー。
「もっと人数集めればよかったね」。食べたいものが多すぎて、2人で来たことに少し後悔していると、さっそく、カールスバーグ生ビールが到着。
ワインがメインのお店でも、とりあえずビールはやっぱり欠かせない。そして、ビールに柿ピーで、とりあえず乾杯!
種類豊富なメニューに圧倒
編集長と、別件の仕事の話しをしていると、いぶりがっこ入りポテトサラダが到着。ちなみに、「いぶりがっこ」とは、燻煙乾燥させた大根の漬物のこと。
ポテトサラダをひと口食べると、燻製のいい香りが広がり、ポテトの柔らかい歯ごたえといぶりがっこのコリコリとした食感が絶妙にマッチして、病みつきになる。何だこれは、箸が止まらないぞ……。
いぶりがっこがたくさん入っているので、どこを取ってもコリコリ美味しいし、ポテトだけを食べたとしても、燻製の香りがしっかりついている。そして、この香りが、ビールにまたよく合うのだ。
ポテトサラダに一番合う漬物は、いぶりがっこ。私の新たな常識が刻まれた。
お次は、「自家製ピクルス」。大根にきゅうり、パプリカにうずらの卵。大きめに切られた野菜は噛めば噛むほどみずみずしさが溢れてくる。
バランスのいい酸味と甘さ、そして、鼻に抜ける爽やかさのトリプルコンボ。
ピクルスは食べたことはあるけれど、うずらの卵のピクルスは初体験。程よい酸味が黄身までしっかり漬かっていて、これがまた美味しい。
つい、色々な野菜を味比べてして楽しんでしまう。
「お待たせしました」
運ばれて来たのは、「牛バラ肉の赤ワイン煮込み」と「タコの唐揚げ」。
ここはやはり、熱々の牛バラ肉の赤ワインから。
鉄板プレートに、ゴロンとボリューミーな牛バラ肉、温泉卵にマッシュポテト。正直、その見栄えだけでテンションが上がる。
温泉卵を崩して、お肉に絡めながらひと口。牛バラ肉はスプーンで切れるほど柔らく、ギュッと噛みしめると肉汁と赤ワインのソースの旨味がどんどん溢れてくる。
卵のとろみもマッシュポテトのクリーミーさも相性抜群。濃いめのソースと絡み合って、一瞬で幸福に浸れた。
これには、やっぱりワインを合わせて飲みたくなる。
ワインメニューを見ると、編集長から小さな叫びが……。
「えっ、安い! これは今までの〝浅草橋を歩く〟の中で最安値更新ですよ!」と、目を輝かせて興奮状態。私はそこまでワインに詳しくないので、編集長が選んだものを一緒にいただくことに。
選んだのは「ビトラル シラー レセルバ」。お値段なんとボトルで1900円(ほとんどのボトルが1900円!)。チリのワインで、フルボディ。
ソムリエのような達者なレビューは悲しいことにできないが、口に含ん瞬間、濃厚なブドウの味わいが広がるのに思ったほど渋みが強くなく、とても飲みやすい。フルボディと知って少し身構えていたのに、味わいがまろやかでとても美味しい。もしかして、一緒に食べている料理のおかげ?
ワインで喉を潤しながら、今のうちにピザの注文を。
オーソドックスにマルゲリータ……とも思ったが、欲望に忠実に「たらこマヨシーフード」に決定。
たらこマヨも、シーフードも、大好きだから仕方がない。
そうしてピザを注文中、1組の子供連れの家族が。
「この辺りにはファミリーレストランがないので、家族連れの方もよくお見えになられますね」とは店員さんのお話。
ファミレスばりにリーズナブルで、メニューも豊富で、そして、味はファミレス以上。確かに、家族連れには最適だ。ピザは前述した通り31種類もあるので、子供向けのメニューにも悩まない。
私も、近所にCONAがあってほしい。そしたら間違いなくしょっちゅう通うだろう。
「タコの唐揚げ」を食べながら、ピザを待つ。
大きめにカットされたタコは食べ応えがあり、また、衣の味付けが濃いめで最高。ビールにも、ワインにも合う酒好きには嬉しい一品。
リーズナブルでも本格派・ピザ
「もっとピザ頼みたいね」「そうですね、一種類じゃ寂しいですよね」なんて、2人の胃袋を気にしつつ、ピザの追加に悩む。
「まずは一枚食べてから」ということに決まり、お待ちかねのメインメニュー、「たらこマヨシーフード」ピザが到着。
最初に驚くのは、具材の多さ。
これで本当に500円? と思ってしまうほど、エビとイカがゴロゴロ乗っている。もちろんチーズもたっぷり! これはもう、美味しいに決まっている。食べなくてもわかる。食べるけど。
生地が薄めなので、これならたくさん食べられそう……と別の期待を感じつつ、大きくパクリ。
たらこマヨのしょっぱさと、チーズの濃厚さ、そして、刻み海苔の香りがシーフードにマッチして、至福の時間が到来。生地は耳までサクサクで、1枚なんてペロリと一瞬で食べ終わってしまう。
マヨネーズのしょっぱさが思った以上に利いているので、マヨ好きにはたまらないはず。
エビとマヨネーズの相性の良さを思えば、この美味しさも想像がつくはず。でもきっと、想像以上だろう。
優柔不断な僕ら。
追加でピザを頼むか、悩みは口に出さず、箸休め(になるかはわからないが)として「アンチョビキャベツ」を注文。
熱々のキャベツに、アンチョビの塩加減の美味さにお酒が進む。なにせボトルで頼んだから、いくら飲んでもOKなのだ。
(みるみる減っていくワイン……)
ビールを飲み、ワインを飲み、肉を食べ、ポテトで炭水化物もとり、揚げ物も食べ……。
結構食べたはずなのに、意外といける。
一品一品が2人で食べるにちょうど良いサイズなので、勢いに任せて食べたいものを注文しても大丈夫なのかもしれない。
「まだいけそう? もう一枚どうする?」ちょっと苦しそうな編集長の声。
待って、思ったより全然いける。だって、ピザもっと食べたい!
そんなことを心の中で思いつつ、「あと一枚くらいなら食べられると思います」と、妙な少食気取りを出しながらもう追加注文することに。
普段ならこのくらいでやめておくんです。でも、ピザの生地は薄めだし、もう一枚くらい食べたっていいでしょ?
そうして注文したのが、「アンチョビ&オリーブオイル」。イタリアンっぽいものも食べておかないとね……というミーハー心。
そして、これがまた、凄まじい美味しさ。オリーブと香草の香りが食欲をそそらせてくれるので、満腹度が高くてもパクパク食べられてしまう。
注目すべきは、生地の厚みが違うところ。先ほどより厚めで、モチっとした食感なのだ。
メニューによって生地を変えているとは、恐れ入ります。ALL500円でこの手の込みよう、宅配ビザを頼むなら、絶対にCONAで食べたほうがお得で美味しい。
食後はワインでまったり満腹を癒しながら、店内の雰囲気に浸る。
ふと窓の外を見下ろすと、使い慣れたパーキングが見えた。
帰り際にチラと見ていたお店が、こんな穴場だったとは。
気になってから一歩踏み入れるか、景色と共に流してしまうのか。小さな選択が、小さな幸福に繋がるんだな……なんて、少し大げさに思ってみたりした。
店員さんのオススメと人気メニューは……!?
たくさん食べて、ボトルを入れてもあまり高くならず、最後の最後までリーズナブルさに驚かされました。窯焼きの香ばしい本格的なピザが、500円という手頃さで食べられるお店はなかなか見つけられないでしょう。
店員さんのオススメピザは「メキシカン」。ハラペーニョが利いていて、辛いものが好きな方には特にオススメなのだとか。
お店の人気ピザは「マルゲリータ」「照焼チキン」「ゴルゴンゾーラメープルシロップ」。
今回は欲望に任せて注文してしまったので、次の来店時には人気メニューにもチャレンジしたいと思います。
お酒は他にもカクテルや日本酒、焼酎、サワーなどもあるので、お好みに合わせてどうぞ。
ちょっと特別な日に、なんでもない日の夕食に、道角の穴場に立ち寄ってはみませんか。
という、お店が閉店してしまいました
と、いう原稿だったのですが、残念ながら、コロナ禍の影響か、あるときふとお店の前を通ったら閉店の張り紙が……。原稿確認のお返事がない状態だったので、原稿もお蔵入りにしていたのですが、「CONA」自体は浅草橋以外にもたくさんあるため、そんなCONAの一端が垣間見せることができたらと思い、公開してみた次第です。 以下の公式ホームページで、お住まいエリアから近いCONAを探してみてはいかがでしょうか?
文:小川 沙由里
写真:伊勢 新九朗