古本屋「古書みつけ 浅草橋」が出版社に!! 絶望に効く〝気がつけば〟シリーズとは?

2023年4月、浅草橋で店を構える「古書みつけ 浅草橋」が、出版社「古書みつけ」としての活動を開始。

4月28日には、さっそく同社が手掛ける〝気がつけば〟シリーズ第1号作品、「気がつけば生保レディで地獄みた。」が発売され各所で反響を呼んでいる。

これまで浅草橋というエリアで、当サイト「浅草橋を歩く。」の運営や、町のガイドブック「浅草橋FANBOOK」の制作、さらに、「古書みつけ 浅草橋」という古本屋オープンなど、様々なプロジェクトを打ち出してきた、もろもろの代表・伊勢新九朗に、〝気がつけば〟シリーズの魅力についてなどお話を聞いてきた。

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※注:伊勢の自作自演ではありませんのであしからず(笑)。

小さな出版社だからできること――〝文学の町〟発の新プロジェクト

悲しきかな、常態化する出版不況。

だが、そんな中で〝ひとり出版社〟などの小さな出版社の存在が、業界に一陣の新風を吹かせている。〝古書みつけ〟もその1つだ。

古書みつけは、浅草橋で営業する小さな古本屋だ。

浅草橋と言えば、かつては島崎藤村や池波正太郎、森鴎外から永井荷風まで名だたる文豪たちが作品の舞台に据えた〝文学の町〟だが、一方で現在、この地にある書店は古書みつけを含めて2店舗だけ。

文学の町としては少々悲しい現状ではあるが、それゆえ、古書みつけがこの地に店を構える意義はたいへん大きい。

編集プロダクションの下に書店が誕生!ブックライターが営む「古書みつけ 浅草橋」

そんな古書みつけが2023年4月より出版社としての活動をスタートしたのだ。

「本屋なのに出版?」という疑問を持たれる方もいるかも知れない。

しかし、古書みつけ代表である伊勢氏に話を聞くと、これは伝統的な出版スタイルであるらしい。

「現代で本の出版と言えば、出版社や編集プロダクションのほか、本屋や本屋に本を卸す取次会社まで、さまざまな会社がかかわっています。しかし、江戸時代の頃は出版物の制作から貸本屋や本屋の営業、さらには流通までワンセットで出版社がおこなっていました。さすがに現代の出版規模で、すべての工程を1社でおこなうことは難しいです。それでも私たちのような小さな出版社なら、〝本にかかわるすべてのこと〟をひとまとめに発信できることが可能なのではないか。そのような思いから、今回出版社としてスタートすることを決めました」(伊勢、以下同)

なるほど。現代の出版スタイルは分業化が徹底し、全国各地に効率よく書籍を届けることができる反面、大胆なチャレンジは試みにくい。小回りが利かないのだ。

その点、古書みつけでは、店舗内での販売はもちろんのこと、読書会やライブ配信の実施、地元浅草橋のイベントへ参加するなど、大手出版社ではなかなかできない、草の根の宣伝活動をおこなっている。

1冊の本に注ぐ情熱を含めて、これぞ小さな出版社のだいご味である。

また、前述したようなひとり出版社などの小さな出版社は、大手が出版に踏み切れないユニークな本を刊行できるというメリットがある。採算が取れないという理由で人目に触れなかった良作を世に送り出すこと。古書みつけのような出版社による、ある種〝落穂ひろい〟のような活動が日本の本の多様性を担っているのだ。

記念すべき第1弾である本のテーマも「生保レディ」という、テレビやラジオなど、大手保険会社がスポンサーとして名を連ねるメディアではタブー視されている職業を扱う。業界の闇をあぶり出す作品となっていて、雑誌やWebメディアからの取材の申し込みは多数きているそうだ。

発売日当日にリリースされた文春オンラインの記事は、公開数字で60万PVを達成するなど、多くの人が関心を寄せている。

大手が出版をためらう〝声なき声〟があなたを絶望の淵から救う

そんな古書みつけが自信を持って世に送り出すのが、〝気がつけば○○〟シリーズだ。

これは、古書みつけが企画する〝気がつけば○○ノンフィクション賞〟受賞作を中心とする作品群のこと。

栄えある同賞第1回受賞作「気がつけば生保レディで地獄みた。」を皮切りに、今後も続々とシリーズ作品の刊行が予定されている。

気がつけばシリーズの最大の特徴は、従来の出版物では取り上げづらかった〝声なき声〟にスポットを当てるマイノリティノンフィクションであることだろう。

「近頃ソーシャルメディアでは、〝#Me Too〟など弱き立場の人々を救う試みが成功していますが、私たちはあえてこの時代に〝本〟という手段を通じて、日ごろ光の当たらない職業人や、弱者の声なき声に耳を傾けたいと思っています」

確かに、テレビやラジオ、新聞など、巨大な後ろ盾があるようなメディアではなかなか扱われない〝社会問題〟でも、「文春砲」よろしくではないが、出版物ならば、拾われにく〝弱者の声〟を発信することが可能である。

近ごろ話題を呼んでいる某芸能事務所の男性アイドルたちへの性加害疑惑など、〝大人の事情〟で事実上タブー視されていることも多々あるのが現状だからこそ、伊勢氏が手掛けるこのプロジェクトには意義があると感じる。

気がつけばシリーズ第1作「気がつけば生保レディで地獄みた。」も、大手出版社では刊行しにくい〝いわくつき〟の作品だ。

《著者の忍足みかんは、本書にも書かれているが、友人からのすすめで「ノンフィクション賞」に応募し、見事、大賞を受賞した》

「生保レディは、保険会がスポンサーであることが多い大手メディアでは取り上げにくい題材です。作品内でも言及されていますが、生保業界の闇を取材したテレビ局の報道が上層部の圧力でお蔵入りになったこともあるようです。」

このような事例があるため、前述したように、「気がつけば生保レディで地獄みた。」も、民放などで扱ってもらえない可能性が高いと伊勢氏は述べるが、その声には〝スポンサーなき出版社ゆえにできることがある〟という力強い矜持が感じられた。

《現在、著者・忍足みかんは、毎週水曜に、古書みつけにて店番をして、自らの作品を自ら手売りもしている。こういった仕掛けも本屋と出版社の融合がなせるわざ。業界初の試みではないか》

先ほど、小さな出版社の活動を落穂ひろいと評したが、古書みつけの気がつけばシリーズは、まさに社会という田畑に埋もれる無名の著者たちの声なき声(それは悲痛なものとも形容できるだろう)を〝見つけ〟、本として実らせる。そして、この〝実り〟は連鎖して行く。

「気がつけば生保レディで地獄みた」は2023年4月28日の発売当日にAmazonで完売(※現在は購入できるように補充されている)。レビュー欄には、同じく生保レディという地獄を生き抜いた同志たちの共感のメッセージが複数寄せられている。

さらに、発売後2週間で重版出来が決定。無論、売り上げという点では、ここからが真の勝負であるが、快進撃の予感は日に日に高まっている。

「第2回気がつけば○○ノンフィクション賞」公募開始

そして、現在、古書みつけでは、〝第2回気がつけば○○ノンフィクション賞〟の原稿を募集中だ(2023年12月31日締め切り)。

受賞作品には、生保レディ同様に、商業出版物としての出版が確約されている。

ノンフィクションというと尻込みしてしまう方もいるかも知れないが、特別な人生経験は必須ではない。

あなたの人生を、あなたが生きて来たという〝証〟を、ありのままに力強く語ってほしい。

その情熱がこの国のどこかで、絶望する誰かを、そしてあなた自身を救うことになるのかも知れないのだから。

ご興味がある方は、是非ともご応募あれ。

【古書みつけ宣言】声なき声に耳を澄ませば……絶望に効く生き方

第2回「気がつけば○○ノンフィクション賞」/原稿募集(締切:2023年12月31日)

浅草橋には本屋がふたつ

古書みつけ以外にも、浅草橋にはもうひとつ「書肆スーベニア」という独立系書店がある。

こちらの店舗でも「気がつけば生保レディで地獄みた。」は販売してくれていて、今後は、町の本屋同士、町を舞台にしたプロジェクトができないか模索中だそうだ。

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また、古書みつけでは、さきほども紹介したように、「日替わり店主制」というシステムを導入、毎日、本好きな店主たちが店番をしているというのも魅力的。

「気がつけば○○がシリーズ化していき、忍足さんのように、ほかの著者たちにも日替わり店主に参入してもらい、〝ときどき著者が店番〟みたいなことができたら、なお面白くなりそうだなーと思っています」

と、楽しそうに語る伊勢氏に、2024年の大河ドラマ化が決定した「蔦屋重三郎」の姿を重ねてしまったので、そう伝えると……。

「そんなスーパーな編集者でも、仕掛け人でもないですよ」と謙遜。

とはいえ、奇しくも、蔦屋重三郎は、同じ台東区にある吉原にて、小さな出版社をスタートさせた。

個人的には、伊勢氏が文学の町である柳橋に、本屋と版元をつくったのには、何か運命的なものを感じずにはいられない。

この小さな町に誕生した小さな出版社がどんな進化を遂げることになるのか、町の人たちと共に見守っていきたい。

「古書みつけ 浅草橋」公式サイト

[古書みつけ 浅草橋]
住所:台東区柳橋1-6-10
営業:不定休 ※みつけホームページのカレンダーにてご確認ください。

文・及川浩平