浅草橋発!多くの人に愛されるアパレルブランド「余白」代表・渡邉展行さんインタビュー

2022年冬。以前からずっと気になっていたアパレルブランド「余白」の取材を行ないました。
余白のどこに、なにに惹かれたのか。その理由を紐解くために、お店を運営する方々にたっぷりお話を伺ってきました。

とても素敵なお話をたくさん聞くことができたので、今回は記事2本立てでご紹介いたします!

お店のはじまりは残布で作った洋服の路面販売

訪れたのは、以前当サイトでご紹介した循環をテーマにした複合施設「élab(エラボ)」が1階に店舗を構えるビル。このビルの2階に、今回ご紹介するお店「余白」があります。

実はこのエリア、余白やélab、そしてそのお隣にはラッピングペーパー専門店「REGARO PAPIRO(レガーロパピロ)」と、近年話題を集めているお店が軒を連ねる浅草橋の最先端スポット。

我々取材陣と余白の出会いは、élabを取材したときのことでした。

サステナブル、サーキュラーエコノミー、SDGs……話題のニュースポット『élab』を徹底レポート♪ カラフルな店内は〝紙〟のワンダーランド♪ラッピングペーパー専門店「REGARO PAPIRO(レガーロパピロ)」で本気のお買いもの!

「お店の中にお店がある」という不思議な感覚を味わえるのもこの店ならではの魅力。
余白とélabの両店を同時に楽しむことができるのも、大きな醍醐味なのです。

私たちを出迎えてくれたのは、代表の渡邉展行さんとスタッフの越川真由子さん。

澄んだ空気が広がる店内で、まずは、余白の歴史について伺いました。

「父が肌着問屋で丁稚奉公をし、その後、独立をして両国にお店を構えたのが始まりでした。でも、その当時、肌着問屋の景気が少しずつ傾き出したこともあり、父は縫製工場に職種を切り替えたんです。僕が小学生ぐらいのときに、工場を秋田に作って、事務所も両国から馬喰町に移転しました」(渡邉さん)

幼い頃の渡邉さんは、お店を継ぐ意思はなく、お父様からも、「繊維業界は先細りだろうから継がなくていい」と言われていたそうです。
しかし、渡邉さんが20歳の頃にお父様が病気で倒れ、お店を手伝うことに。そして、その流れで、お店を継ぐことになったのだとか。

「ただ、父の言う通り、〝このままこの仕事をやっていても先が見えないな〟とは思っていました。ちょうど僕がお店を継いだ頃から安価なアジア製品がどんどん台頭してきて、アパレル産業が飽和状態になり始めていたんです」(渡邉さん)

「なにかできることはないだろうか」と考えた渡邉さんは、残布で作った洋服を馬喰町の事務所の前で販売するようになりました。これが「余白」誕生のきっかけとなったのです。

「馬喰町で路面販売されていた洋服に惹き寄せられたのが私です。当時、私は別の会社の事務職に就いていて、ただのお客さんでした。そのうち何度かお店に通うようになり、徐々にお店の人たちと親しくなって、今に至ります(笑)」(越川さん)

現在、お店のスタッフは4名。なんと、代表の渡邉さんや越川さんをはじめ、全員が服飾系の勉強をしたことがない人ばかりなのだとか!

「だから、アパレル用語がいまだにわからないなんてことも多々あります(笑)」(越川さん)

余白が今の場所に店舗を構えたのは5年ほど前。以前は浅草のオレンジ通りでお店を運営していたそうですが「賑やかなことは浅草時代にやりきったので、これからは好きなことをゆるりとしたペースでやっていこう」と引っ越しを決意したそうです。

「両国で幼少期を過ごした僕にとって、浅草橋は昔から慣れ親しんだ場所でもありました。週刊少年雑誌をフライング発売するお店がこの近くにあって、毎週金曜に足を運んだものです」(渡邉さん)

他愛もない話をしながら和やかな時間を過ごしていると、ふと気になることが頭に浮かびました。

「余白」というお店の名前にはどんな意味があるのだろうか、と。
「パソコンのキーボードを触っていたときにスペースキーが異様に大きくて〝スペースって大事なんだな〟と思ってこの名前にしました。つまり、大した理由はないんです(笑)」(渡邉さん)

トレンドを追うのではなく、売りたいものを売る

渡邉さんは、「大した理由がない」ものをとても大切にしています。

「ものを作るにあたって、僕は無駄話や空気感、目に見えない気配などが大事だと思っています。僕たちが集まると、いつも〝最近どんなことに興味があるの?〟〝今の気持ちは?〟なんて話ばかりしてますね。『余白』は、自分たちの気持ちを正直に伝えられる場所にしたいんです」(渡邉さん)

お店の内装も、時期によって大きく変化します。それは、売る側が洋服を売るまでの工程を楽しむため。
「不思議なことに、自分たちの気持ちが入っていない、つまり楽しんで作っていない洋服は売れないんですよ。トレンドに合わせよう、お客様に合わせた服づくりをしようと思えば思うほど、売る側と買う側の気持ちがどんどん離れていってしまったんです」(渡邉さん)

「例えば、僕は肌が弱くて、肌に刺激を与えない服づくりを心がけています。モノトーンの洋服が多いのはカッコつけているからではなく、自分の肌に耐えられるような服であることを一番大事にしているからこういうカラーバリエーションになっているだけ(笑)。でも、そうやって、自分がいいと思うもの、大事にしているものに重きを置きながら服を作ると、次第にお客様もお買い物を楽しんでくれるようになっていきました」(渡邉さん)

種からはじまる服づくり

今後の展望を尋ねると、渡邉さんは、「捨てられない服を作りたい」「作った服を回収して新たな服を作りたい」という2つの目標を挙げました。
そのうちのひとつとして取り組んでいるのが、綿の栽培と収穫です。

「いま、屋上に福島で生産されている茶綿を移築して育てています。そして、その種をスタッフやお客様と分け合って各自で育てて、綿を収穫するという取り組みを行なっているんです。ただ、茶綿を育てるのってすごく大変なんで、私は過去2年連続で失敗しました(笑)」(越川さん)

「実際に育ててみて初めてわかることがたくさんあったんです。皆で綿を収穫し、種を再び育てることによって、〝洋服とはなんだろう〟〝どうすれば無駄な廃棄がなくなるのだろう〟と考えるきっかけにもなりました。〝エコ〟〝SDGs〟と言われてもピンと来なかったものが、〝自分ごと〟として考えることによってようやく少し理解できたかもしれません」(渡邉さん)

取材時、お店の一角で綿くり(綿と種を分ける道具)作業の体験コーナーが設置されていました。

実際に体験してみると、これが意外に難しい! しかも、Tシャツを1枚作るには250gもの綿が必要だというのです。

作業に慣れてきた頃には、すっかり綿くり作業のトリコになっていました。
「カタカタ、コリコリ、カリカリと、音がとても心地いいですよね。1時間ぐらい作業しているととっても心が癒されるんですよ。仕事の休憩中に、瞑想感覚で無心で作業することもあります」(越川さん)
私はほんの数分作業をしただけでしたが、その間は雑念にとらわれることなく、お寺で禅を行なっているような感覚を味わうことができました。綿くり、機会があればもう一度やってみたいものです……。

「僕たちが目指しているのは〝循環の実践〟です。これは、『élab』さんと全く同じで〝ここまでélabさんと気持ちが合致するとは!〟と驚いたものです。『élab』さんと共に、循環型社会の築き方を考えていけたら嬉しいですね。余談ですが、我々スタッフは『élab』さんのランチが大のお気に入りで、もはや社食として活用させていただいています」(渡邉さん)

最後は、スタッフの大口萌(おおくち もゆ)にも参加してもらい記念撮影。
約2時間にも及んだ取材は、終始和やかで笑顔が絶えない素敵な時間でした。

仕事を楽しんでいる人に出会うと、こちらも楽しい気持ちになる――「余白」には、あらゆるポジティブなパワーが〝循環〟しているように感じました。

次回予告&店舗情報

後編は店舗探索! 洋服づくりのこだわりをさらに深掘りします。
スタッフの皆さんがおすすめする品々や、取材陣が実際に購入したアイテムもたっぷりご紹介いたしますよ♪

編集部員が本気でお買い物!浅草橋発アパレルブランド「余白」商品徹底レポート

取材・文/牧 五百音
撮影/伊勢 新九朗

【余白】
住所:東京都台東区鳥越2-2-7 2階
営業日:金曜日 13:00~18:00 / 土曜日 12:00~18:00

(臨時営業などは毎月のカレンダーをご覧ください)

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