その日、僕は、激しく落ち込んでいた。なぜなら前日に、2年付き合った彼女から、「あなたと一緒にいても将来が見えない」と、別れを切り出されていたからだ。
そのため、正直なところ取材ができるような精神状態ではなかった。だけど僕は、予定どおり浅草橋に向かった。どんな精神状態の時でも、与えられた仕事は全うする。それが、「プロフェッショナル」の「流儀」というものじゃないか。
というわけで、浅草橋駅から江戸通りを蔵前方面へ北上、ファミリーマートを過ぎたところで、ひとつ路地に入る。この「ひとつ路地に入る」ってところがポイントだ。
うまい店っていうのは、たいてい「ひとつ路地に入ったところにある」と相場が決まっているのだ。
「PASTA&BAR DARK-HORSE(ダークホース)」
その外観は、アメリカ西部のバーを思わせるような(行ったことないけど)、ウエスタン調のつくり。ビッグサンダーマウンテンみたいな感じ、と言えば伝わるだろうか。
内装も、徹底的にウエスタン調にこだわっている。イタリアンでありながら、常識にこだわらない「ダークホース」っぷりが、料理をいただく前からひしひしと感じられた。
とにかく僕は、最悪な精神状態の中、ダークホースの料理をいただき、なぜか人生をもう一度やり直そうと決意できたのである。今回はそのルポとなる。
ダークホースでしか味わえないオリジナル料理を堪能
まずは、ビールで乾杯!(今回は編集長と2人で来店)
ダークホースには、ハートランドやコロナなどのビールはもちろん、カクテルに焼酎、ウイスキーにワインと、多彩なお酒がそろっている。
店主さん曰く、「居酒屋の発想でイタリアンをやりたかった」とのこと。
今でこそ、イタリアンバルはそこら中に乱立しているが、ダークホースが開店したのは、今から16年前。まさに、時代を先取りしていたお店なのだ。
「オリジナルの一品料理は、どれもおつまみに最適です。小皿での提供になりますので、いろいろ食べたい女性のお客様には特に好評です」(店主)
店主さんに後押しされ、「うまそう!」と思った料理を次々に注文!
まずは、「小海老とアボカドのオリジナルドレッシングかけ」。
プリップリの海老と、絶妙な触感のアボカドが食欲に火をつける。うまみの深いビネガーソースとの相性も抜群で、ビールを飲み終わる前に完食。
続いて、「北海道産ホタテ貝柱の香草フライ オーロラマスタードソース」をいただく。
サクッとした衣の奥には、肉厚な貝柱のジューシーな触感。ほんのり香る香草がアクセントとなり、何個食べても飽きがこないうまさ。
これがファミマのホットスナックで売られていたら、ファミチキに並ぶ超ヒット商品になること間違いなし!(貧乏くさい例で、すみません)。
そしてそして、このオーロラマスタードソースは、ずっと舐めていたいほど中毒性あり。付け合わせのレタス菜にたっぷりつけて、最後の1滴までいただいた。
オリジナル料理はまだまだ続く。
写真は「カマンベールのワンタン包み揚げ」。この発想はなかった!
濃厚なチーズがほどよくとろけて、ワンタンのパリパリ感とベストマッチ。
すでにビールからワインに移行していたが、お酒のつまみになる料理の数々に、いつのまにか落ち込んでいた精神状態も上向きに(単純な性格でよかった)。
さらに、「ピザポテト」を注文。「まさかあのピザポテト?」と思いきや、そんなわけはなく、ジャガイモをオーブンで豪快に焼いた一品が登場。
たっぷりのチーズと、パプリカなどの新鮮野菜がたくさん入っていて、ボリューム満点で大満足!
つまみがうまいとワインが進み、ワインが進むとつまみが食べたくなる。
そんなループ状態に陥った僕らは、さらに、「ポテトとベーコンのミートソースオムレツ」を注文。
さすがミートソースを店の売りにしているだけあって、ミートソースのコクと、肉のボリューム感はハンパなし!
「ミートソースだけでなく、当店はすべての料理に自家製ソースを使っています。手前味噌ですが、一流イタリアンと比べても遜色がないはずです」
と店主が言うように、このソースのうまさってもう、ミシュランとか狙えるレベルでは⁉
しかも、価格はリーズナブル。
最高すぎる!
ワインにハーフボトルがあるのも嬉しい
ワインをよく飲む人のあるあるだが、イタリアンやバルに行くと、「ハーフボトル」を置いているお店が意外と少ない。
グラスだと物足りないし、フルボトルだと飲みきれない。ハーフボトルがあればいいのに、とよく思う。
この点もダークホースはしっかり押さえていて、コスパのいいハーフボトルを置いている。かゆいところに手が届く、ホスピタリティ最強のお店なのだ!
また、メニュー数は驚くほど豊富で、何回来店しても飽きがこないラインナップ。パスタ以外のメニューも、下記のようにたくさん。
メニューにも「ビッグサンダーマウンテン感」があって、眺めているだけでもワクワクしてこない?
もちろん、メインになるパスタのラインナップも充実。トマトソース、トマトクリーム、ガーリックオイル、バジリコソース、クリームソース、ミートソースなどの中から、その日の気分にあわせて注文してみよう。
ハーフボトルを開けてしまった僕たちは、いよいよメインのパスタを2種頼むことに(結局、もう1本ハーフボトルを頼みましたが……)。
パスタにもハーフサイズがあるので、たくさんの味を楽しみたい欲張りさんにはもってこいだ。
こだわりの「ゆであげパスタ」は絶対頼むべし
まず、やってきたのは「アボカドとオリーブのミートクリームパスタ」。
ミートクリームとは、ミートソースとクリームソースが合体したオリジナルソース。パルメジャーノチーズと絡めれば、最強にコク深い味を楽しめる。
続いて、「小海老と水牛モツァレラのバジリコソースパスタ」を堪能。
フレッシュバジルの甘い香りと、濃厚なモツァレラチーズが相まって、お口の中がパラダイスに!
パスタも、すべて店長が開発したオリジナルソース。
お酒にも合うように、麺は1.4ミリの細麺ロングパスタにこだわっているそう。
確かに、ワインを飲みながらでも、どんどん食が進んでしまう。メインでありながら、おつまみの役割も果たすなんて、このパスタ、最強すぎるって。
2皿ぺろりと平らげて、その美味しさのトリコになってしまった僕たちは、さらにもう1皿注文。
その名も、「生卵ぶっかけカルボナーラ」
ネーミングからして「うまそうオーラ全開」ですが、写真のように、自分で生卵をペンネにぶっかけて、
チーズもぶっかけて、
高速でまぜまぜして完成。
これがもう、うまいのなんのって!
生クリームを使わずに、チーズと新鮮卵のうまみだけで勝負するから、お酒のあとでも、お腹がもたれません。
最後のシメとして、ぜひオススメ‼
イタリアン界の「ダークホース」になる!
今回紹介した料理は、もちろん、ほんの一部。
お酒を飲まない方でも楽しめる料理はたくさんあるので、あなた好みの料理をぜひ見つけてみてほしい。けど、パスタは鉄板。
ダークホースは、会社員やご近所の方など、男女とわず人気のお店だ。グループやカップルはもちろん、シングルで来る方もたくさんいるので、浅草橋でイタリアンといえば「ダークホース」を思い出してみて。
でも、ダークホースに「イタリアン」の冠をつけるのは、ある意味もったいないと思う。
その外観からして、「ウエスタン」だし、「ジャンルに囚われないオリジナル料理」をたくさん楽しめて、最後は絶品パスタを味わえる。既存のイタリアンとは一線を画すのが、ダークホースと言えるのだ。
それは店名にも、如実に現れている。
ダークホースとは、競馬での「実力不明の馬」のこと。それが転じて、「真の実力はわからないが、有力だと思われるもの」のことを指す。
ダークホースを店名に掲げることは、店主さんの「既存のイタリアンへの挑戦」だったのだ。
自分はまだ実力不明のダークホースだけれども、一流イタリアン(有名な馬)にも負けない、おいしくて斬新な料理をお客さんに提供したい。
16年前の店主さんには、きっとそんな意気込みがあったのだ。
そして、現在、店主さんの意気込みは見事に結実し、有名馬にも負けず劣らない料理を提供されている。しかも、超リーズナブルな値段で。
店主さんに、店名の由来についての想いをうかがい、僕は仕事にやる気を失っていた自分を恥じた。じつは、彼女に振られてしまったのは、「どうせ俺なんか、3流だし、一生大した仕事できないよ。はは」みたいなネガティブなことばかり言っていたからなのだ。
イタリアン界の「ダークホース」で美味しいパスタをいただいたら、出版界の「ダークホース」になるぞ! となぜか勇気をもらえた(単純な性格なんです)。頑張れば彼女も戻ってくれるかもしれないしね(笑)。
余談の多い原稿になり恐縮です。
浅草橋に立ち寄ったときは、店主さんの熱き思いが詰まった料理を、ぜひ味わってみてほしい。
そして、「私も●●界のダークホースになる!」と、決意するきっかけにしてみてはいかが?
店舗情報
「ダークホース」 営業時間:11:30~14:30|17:30~23:30 ※土曜はランチのみ 定休日:日曜・祝日・第3土曜 お問い合わせ:03-3863-7073
文:堀田孝之
写真:伊勢新九朗