【改築中】常連に愛される老舗大衆酒場「住吉」は活気が溢れる浅草橋の楽園!

2020年6月某日19時の手前、雨が降る浅草橋に降りる。緊急事態宣言が解除されたが、ここまでの電車は空いていて寂寥感が漂っていた。だが、久しぶりに浅草橋にいる自分の心はワクワクしていた。

話は幾日か前に戻る。

気付くと自分のスマホに一通の通知が。「今週、浅草橋で飲みませんか?」

お馴染みの編集長からのお誘いだった。

うー、あー、と悩む。まだ解除されたばかりでリス……クが……。

「明後日なら行けます!」と返信していた。吞兵衛の欲望は、恐れる心に打ち勝つのだった。

今日は、今までの取材と違って時間がない。お店が22時で閉店してしまうため、いつもより1時間早く待ち合わせて店に向かった。

外の暗い雰囲気とは裏腹な満席の明るい別世界がそこにはあった

「ここです」と、歩いて3分ほどの年季の入った居酒屋の前で言われる。

編集長は外観の写真を撮っている。自分はそれを見ながら、なんか暗い雰囲気だな。お客さんが全然いなくて店主と1対1とか気まずいなぁ……などと考えていると、写真を撮り終えた編集長から「入りましょう」と声がかかる。

店に入った途端、先ほどの杞憂は一掃された。店内は満席で(※もちろん密を避けるための空きスペースはあった)、自分たちより年上の先輩方がガヤガヤ飲んでいた。座敷に通され、隣と間を空けた席に通される。

編集長に「めちゃめちゃ混んでて良かったです。正直、お通夜みたいな雰囲気かと思ってました」と伝えた。

「本当ですね。この活気は常連さんが多いからですね。愛されていますね」という編集長の返答にうなずく。

店主である女将に、「ハイ」と渡された量多めのお通しのポテトサラダ、具はスタンダードにハム、人参、玉ねぎ、きゅうり。ちょっと甘めで懐かしい味。瓶ビールを頼む。来たのはサッポロビールの赤星。コップはアサヒなのはご愛嬌だ。

乾杯!

おつまみ4種セット! 注文を考えるのが面倒なときはこれで一発!

何を頼みますかねと、壁に貼られているメニューを見る。

自分が座っている席からは全部のメニューを見ることができないのだが、あとで確認しところ、つまみは大体500円で、700円と1000円のメニューが少しある。

目をつけたのは4種セットで5つの組み合わせから選べるメニューだ。

「決めていいですよ」とのことで、左端のちくわ天、チヂミ、バラチャーシュー、中落ちのセットを選んだ。

あとは単品で何か頼みましょうと話していると、女将からチヂミが終わってしまったので500円のメニューから何か選んでと言われる。これは編集長が食べたかった焼き餃子を頼んだ。

今流行りの漫画や、自粛期間中の仕事、自分の住んでいるところの夜の飲み屋の状況などを話していると「中落ち」が届く。

でかい塊が皿に鎮座している。ネギ、中落ち、海苔、一番底にはカイワレが見えている。

編集長は中落ちが半分近く減るまでカイワレに気付かなかった。ネギたっぷりの中落ちを醤油に付けて海苔で巻いて食べる。

油っぽさは大量のネギが消してくれてあっさりしている。それをムシャムシャ貪る。

海苔の枚数もたっぷりで、小洒落たお店で食べるレバーペーストでバゲットが先になくなって追加で注文するようなことにはならないだろう。

個人的に一番おすすめしたいバラチャーシュー

「ちくわ天」「餃子」がテーブルに。ちくわ天は衣がサクっと、中はやわらかくぷるぷるでおいしい。餃子も先にタレがかけてある珍しいタイプ。中身はニラがたっぷりで、焦げ目が香ばしい。味付けはラー油のピリ辛さがちょうど良い。ビールが進む。

ビールを飲み終えたので、生グレープフルーツサワーを、編集長はホッピーで2回戦目に挑む。

届いたバラチャーシューをつまみに酒を飲む。千切りキャベツが敷かれ、バラチャーシュー、刻みネギと胡椒が乗っかっている。

見た目は脂っこそうで、おじさんには厳しそうだと思ったが、箸で持つと千切れそうなほどにやわらかい。

トロントロンの豚バラをたっぷりのキャベツと頂くと物凄くあっさりして美味しい。胡椒のスパイシーさとネギもその美味しさに一役買っているようだ。

お店で一番注文されるのは、中落ちや煮込みとのことだが、自分のイチオシはこれなので、ぜひ一度食べて欲しい。

編集長がいつの間にか頼んでいた煮込みがやってきたところで、空いた席に女将の娘さんが、旦那さんとお子さんを連れて登場した。そう、今回は、娘さんからInstagram経由でコンタクトがあり、遊びに来ることになっていたのだ。

そして、いそがしい女将に変わって、取材に応じてくれた。

夜は女将と大将! 昼は娘夫婦でランチ営業を。2階では兄がバーを営業中

開業50年。女将が19歳から居酒屋一本で始めたこの住吉。長年にわたって居酒屋を続けてきたことで、娘さんたちの同級生もたくさん訪れ、さまざまな街の常連さんから愛される店となっている。

6月20日頃からは、娘夫婦がランチ営業を始めた。居酒屋でランチ? と思い話を聞くと、旦那さんが表参道のイタリアンで腕を振るっているとのこと。こちらも別でレポートさせていただくとのことだった。

自分は満腹だったので食べていないが夫婦が女将に出してもらっていた焼きそばを編集長が食べていた。味はバッチリおいしかったようだ。

店内には、常連さんから頂いたたくさんの提灯が……。

ほとんど人に触れあわない生活を強いられていたからか、こういった人と人とのつながりを目にすると、久しぶりに酔っぱらっているとはいえ、熱いものが込み上げてきた。店内では、つねに演歌が流れていて、ここ「住吉」は、浅草橋の人情酒場なのだとしみじみ感じた夜だった。

密を避け 地元密着 酒の酒

取材は終わり、娘さん達もお帰りになり、編集長が店内の写真を撮り終えてこちらに来ると、「2階でお兄さんがバーを営業しています。行きましょう」とけしかけてくる。

もちろん即答で、「行きましょう!」と、長い自粛期間を終えて欲望が爆発している今、少ない残り時間でも意地汚く飲んでやれ! と自分の中の吞兵衛が背中を蹴り飛ばしてきた。

店を出て横の階段から2階に上がると、1階の雰囲気のある居酒屋とは反対の洒落たバーがあった。地元の同年代の店主や同級生が顔を出すようで、楽しい話が聞けそうな空間だった。2杯飲んだところで時間が来てしまったので帰路につく。

読者の方も、今はさまざまなことに制限がついて息苦しい期間だと思うが、また楽しく飲めるようになるその日を待って、引き続き酒飲みライフを送ろう。

 

文:西川雅樹

写真:伊勢新九朗