浅草橋東口駅から徒歩5分。
「浅草橋を歩く。」編集部および「古書みつけ 浅草橋」のすぐ裏手に居を構える老舗焼き鳥屋がある。
地元の人たちから愛されてやまない、赤提灯酒場「鳥さき」だ。
看板に「釜めし」「やきとり」とあるように、名物はこの2つ。
以前、編集部ではランチタイムのレポートをさせて頂いたが、そのときのあまりの美味しさと、店の雰囲気に感激し、ひそかに夜呑みも敢行したいと思っていたところ、「古書みつけ 浅草橋」の店主である堀田氏から「鳥さきで呑みましょうよ!」と、ごり押しされ、さっそくオジさんふたりで乗り込んでみた夜のことをご報告したい。
古き良き下町情緒漂う釜飯&焼き鳥のお店「鳥さき」は浅草橋の民&ビジネスパーソンの憩いの場でした♪呑みました、食べました、ボトル入れました、そして、惚れました……。
大将からしたら、「男にそんなこと言われても嬉しくねーよ!」と言われてしまいそうなのだけれども、とにかく、〝浅草橋、柳橋イチ赤提灯が似合う店〟と感じた、呑み喰い体験を綴ってみよう。
〝お通し代として二三〇円頂きます。〟
さっそくだが、メニューを見て感動するのは、各酒肴のほどよい安さ。個人的には、しっかりと「お通し代として二三〇円頂きます」と書かれているのがまたいい。なんてったって……。
お通しがこだわりの旬な一品なので、そこから鳥さきワールドに没入できるわけなのだ。この日は、私の大好物である菜の花。そう、菜の花が出た時点で、私の心は鷲掴みされる。
ということで、さっそくいこう。ビールは大瓶を注文し、古本屋店主・堀田と杯を重ねる。
メニューとは別の「本日のおすすめ」が書かれた白板に、「ホタルイカ」の文字を見つければ、それは頼まずにはいられないのが吞兵衛の性(さが)。驚くべきはその量で、よく見かけるホタルイカ盛りとはくらべものにならないほどたんまりと深皿にイカたちが投入され、たっぷりの酢味噌と共に召し上がる。
呑みの冒頭に菜の花とホタルイカの共演を味わえただけで、もはや〝口福度〟は満点である。
「ナメコおろし」なんてものもある。痒い所に手が届くというか、欲しい酒肴に手が届くのが鳥さき大将の腕の見せ所か。これも箸休めとしては最高のつまみだ。
「アスパラガス」と「冷やしトマト」も、〝あったら注文する〟つまみたち。呑み助が欲するものをしっかり把握されてらっしゃる。
焼き鳥盛り合わせ六本と変わり串
やってきました、「やきとり盛り合わせ」。そう、できればビールが終わらないうちに「焼き鳥」などの肉類には手を出しておきたいのが痛風持ちの性(さが)。残念ながら、どんな呑みであったとしても、ビールだけは最初の一杯のみにしているのが痛風野郎である私のスタンスのため、できるだけ、ビールと合う酒肴は早々にご登場いただかなければならないのだ。
いやはや、浅草橋には焼き鳥の名店が多数あるのだが、鳥さきも御多分に漏れず、すこぶる美味い。
小ぶりな肉の食べやすさに、タレがいい感じにしみこみ、「嗚呼、これこれ。こういうのでビール呑みたかった!」的な、庶民にうれしい、「これぞ焼き鳥!」然とした味がするのだ。
って、言いながら、このあたりの焼き鳥の味をすっかり忘れてしまっているのも酔っ払いの性(さが)。いずれもつくねで、シソ巻きだったり、紅生姜が入っていたり、黒ゴマ尽くしだったりと、店オリジナルの変わり串で、兎にも角にも酒が進んだことは間違いない。
レポートの意味! ということ勿れ。記事を読まれた方は、ぜひ、ご自分の目で舌で味わいに行ってみて欲しい。
ボトルキープは「夢酎(むちゅう)」
ここでアルコールを乗り換える。
ボトルキープする気満々だった私は、そのシャレた呼び名に魅了され、ジャケ買い的に「夢酎」なる焼酎を注文した。
読みはもちろん、「むちゅう」。
江戸っ子は小洒落たものが好き。
下町生まれではないけれど、下町で仕事をするものとしては、こんなに洒落が効いた酒を頼まないわけにはいかないだろう。味がどうこうではなく、これももはや、性(さが)ってやつであり、浅草橋を歩く。編集部としては、この店はこれ一択でいっとこう、と心に決めた。
しかも……。
このグラスよ!
そして……。
割りものの炭酸を入れるボトルの愛おしさよ!
なんだろう、このセンス、いちいち吞兵衛心をくすぐってやまない。
しかも、この「夢酎」、とっても呑みやすくて、炭酸割り、つまりは〝チュウハイ〟との相性が抜群なのだ。
「レモンいる?」と、心地よいノリで声をかけてくれる女将さん? にも絆され、追いレモンをしてみたら、これまたしみる。
私がこよなく愛する酒漫画『酒の細道』(著・ラズウェル細木)の主人公・岩間宗達も間違いなく気に入る店であり、「ウホー! これぞ大衆酒場の醍醐味だねぇ。」なんて言いながら、彼と一緒に呑んだくれたい。
「浅草橋を岩間宗達と呑み歩く。」なんて企画ができたらいいなーなんて、昔から思っているだけに、この店はそんな宗達とハシゴ酒したい店のひとつに勝手に挙げさせていただこう。いつか気づいて、ラズウェル先生!
各種酒肴を一気に喰らう!
さて、そろそろシメか……となる前に、せっかくなので、この日だけでなく、ほかの日にも行って頼んだ酒肴の数々を一気見していこう。味がどうこうは言わないんで、見た感じで「ウホー!」ってなって、実際に足を運んでみてほしい。
どう!?
行きたくなったでしょ?
暖簾をくぐりたくなったでしょ?
でも、まだ終わらない。鳥さきの真骨頂はシメにこそ発揮されるのだ。
釜めし用の釜で頂く雑炊
「とり雑炊(おじや風)」。
もちろん、名物「釜めし」でシメるのだって最高だが、昼レポで釜めしはご紹介しているので、ここでは真の吞兵衛らしく「雑炊」でシメてみよう。
釜めしの釜で炊かれたおじやの美しさたるや!
呑み疲れ喰い疲れの胃腸にもやさしくしみる上に、なおかつ、シメた感をしっかりと埋めてくれる食べ応え。これぞ、吞兵衛フルコースの極みである。
ちなみに、写真は撮り忘れたが、「赤出汁」の味噌汁でシメている常連さんもいて、次はそれをやってみようと思っている。「鳥スープ」なんてものもあって、これまた美味しそうだ。
吞兵衛的な一句でシメる
ということで、お別れの時間がやってきた。
店内は、入って目の前にカウンター席とテーブル席があり、カウンター内には厨房、さらに入口左奥には別室のようなテーブル席もある。
はじめて訪れる方にとってみると、外から店内が見えないため、勇気がいるのは確かである。「浅草橋を歩く。」というメディアを運営している私ですら、最初に暖簾をくぐるのは勇気が必要だったし、昼レポしたあとも、夜は常連さんばかりだったらどうしよう? と逡巡し、なかなか再訪することができずにいた。
とはいえ、吞兵衛ならばいざゆかん! 初のお店に入るのは、どんな酒や酒肴、そして店主との出会いが待っているかわからないのが楽しいのであって、良き店と出会ったときの感動を味わってこそ、吞兵衛冥利に尽きるわけで、もちろん、後悔も含めて〝つまみ〟なのだ。
そして、久々に吞兵衛魂が震えたのが鳥さきだったのだ。
ちなみに、このボトルはすでに空となり、新たなボトルを入れさせて頂いている。
徐々に顔と名前を覚えてもらっている!? かもしれないので、月イチでは訪れるようにしたい。と、思うほど、この店に惚れた。
ということで、いつまでも長々と講釈を垂れそうで仕方がないので、このへんで、おひらきといたそう。
春宵や 赤提灯な キミに夢中
「古書みつけ 浅草橋」にお立ち寄りの際は、ぜひ、鳥さきで!
【鳥さき】
住所:東京都台東区柳橋1-5-10
電話:03-3851-0680
営業時間:(平日)11:30~14:00/17:00~22:30(土曜)12:00~14:00/17:00~21:30
定休日:日曜・祝日
写真・文/伊勢 新九朗