柳橋を代表する天ぷらの名店「大黒家」に潜入!五感で楽しむ極上の天ぷらランチを存分に味わってきました。

「大黒家さんは素晴らしいよ」「まだ大黒家さんには行ってないの?」

これまでの取材中、何度も耳にした『大黒家』というお店。この度、念願叶って取材におうかがいすることができました! あまり取材を受けないという名店が、なぜ快諾してくれたのか……その経緯にも〝浅草橋らしさ〟が宿っていました。

それでは、今回は26枚という大ボリュームのお写真とともに、『大黒家』さんを隅々までレポートいたします♪

柳橋のほど近くにお店を構える、ロケーション抜群の天ぷら屋さん/柳橋 大黒家

ということでやってきました。柳橋から徒歩10歩の場所にある噂の『大黒家』さん。
とても瀟酒(しょうしゃ)で高級感が漂う外観を前に、少し緊張感が走ります。

気を引き締めてお店に足を踏み入れると、女将さんがやわらかな笑顔で私たちをお出迎え。この瞬間、それまでの緊張が一気にほどけてゆくのがわかりました。

女将さんに誘われ、2階の古き良き江戸情緒あふれるお部屋に入室。ここで天ぷらをいただくのかな? と思っていると……

「お座敷の準備が整うまで、このお部屋でお茶を飲んで一休みしてください。眼下には柳橋一帯の風景が広がっていますので、ぜひご覧くださいね」とのこと。

窓の外を眺めると、そこには最高のロケーションが広がっていました。佃煮の小松屋さんや屋形船が並ぶ情景は、まさに〝風雅〟の一言に尽きます。この絶景を眺めながら優雅なひととき……なんとも贅沢な時間です。
『梅寿司』の店主・塚田さんが「大黒家さんの良さはね、行ってみて初めてわかるんです」と仰っていた意味が、早くもわかりはじめた気がしました。

ちなみに、小松屋さんの魅力は、この記事でたっぷりご紹介しています! ぜひあわせてご覧ください♪

[前編]昨日より今日、今日より明日、いいものを。「季節の佃煮 小松屋」四代目・秋元治さんインタビュー [後編]昨日より今日、今日より明日、いいものを。「季節の佃煮 小松屋」四代目・秋元治さんインタビュー

実は、今回の取材は、以前うかがった『梅寿司』の塚田さんのご助力あってのもの。取材の際に、「今度は大黒家さんに行きたいと思っていて」とお話しすると、なんとその場で『大黒家』の3代目ご店主である丸山さんに電話をしてくださり、とんとん拍子で日取りが決まったのです。

「塚田くん、そして、『長谷川商店』の長谷川くんとは同級生なんです。学校だけでなく、ボーイスカウトも3人揃って参加していたので、本当に毎日のように一緒に居ましたよ」(丸山さん)

〝浅草橋の三英傑〟を取材できるなんて、至極光栄……。今度、3人の鼎談を本サイトで決行させていただくお約束までいたしました! 今後の展開に乞うご期待を!

花火コーディネーター常駐の『長谷川商店』で、夏を楽しむためのアイテムを本気買い!

閑話休題。ここからは、丸山さんが店主を務める『大黒家』さんについてお話をうかがいます。

「店の創業は昭和23年、祖父がこの場所にお店を構えたのがはじまりです。祖父は浅草にある天ぷら屋『大黒家』の生まれで、そこから独立したという形になります。現在、『大黒家』という名称を引き継いでいるお店は3店あって、みな浅草の『大黒家』の血縁者なんです」(丸山さん)

2つある待合室の一部屋には、先代がビールのCMに出演した際の写真が飾られていました。人気CMにも出演したことがあるなんて……お店の人気と格式高さがうかがえます。

『大黒家』の最大のセールスポイントは、調理を間近で拝見できるこの半円型のお座敷カウンター。

待合室から移動すると、お席にはすでにランチの準備が施されていました。給仕を務める若い方はもしや……

「はい、4代目となる私の息子です。うちは祖父の代から、店主が椅子に座って天ぷらをあげ、次代が隣に立って補佐やお客様への提供を行うというスタイルなんです」(丸山さん)

ご子息は、現在26歳。2021年6月から、こちらのお店で働き出したそうです。

「お父さんに怒られたりすることはありますか?」と質問すると、「文句を言ったり声を荒げたりすることは決してありませんが、視線で〝怒られているな〟と感じることがありますね(笑)」というお答えが。

すると、丸山さんが隣で「親父はもっと怖かったですよ。なかなかタイミングが合わなくて、それこそ声は荒げないけれど、とにかく怖かったです」と苦笑いしていました。

他の店にはない独自のスタイルが脈々と受け継がれているのも、同店の大きな魅力のひとつとなっているように感じました。

「祖父から父へ、そして、私から息子へ。私たちが代替わりすると同時に、お客様も代替わりしてお店に足を運んでくださっています。それは本当にありがたいことだなと思っていますね」(丸山さん)

そんなお話をしている間に、丸山さんは流れるような手つきで天ぷらを揚げる準備をしていました。
さて、いよいよ天ぷらランチのスタートです!

コスパ◎なお昼の看板メニュー「天ぷら定食」の全メニューを大公開!

今回、私が注文したのは、お店のランチタイムの看板メニュー「天ぷら定食」。

最初に登場したのは、カラッと揚がったエビの殻。サクサクパリパリの香ばしい味わいで、これを食べた途端〝天ぷら食べたい欲〟がブワッと噴出しました。

目の前で天ぷらが揚げられるライブ感、そして、油の弾ける心地よい音……見て、聞いて、味わって。「五感で楽しむとはまさにこのことか!」と序盤から感動しきりでした。

お次は天ぷらの代表選手でもある海老。『大黒家』では、その時期に最も美味しく味わえる海老を厳選し、提供しているそうです。

「ゆっくり味わいたい、でも次の天ぷらも早く食べたい!」そんな気持ちがせめぎ合っているうちに、絶好のタイミングで次の天ぷらが到着します。
「季節によって使用する食材は変わります。ミョウガは夏ならではの素材ですね」(丸山さん)

丸山さんが天ぷらを揚げ、ご子息が余分な天かすを取り除いたり天ぷらを切り分ける。2人の作業風景も、待合室から望む柳橋の風景とは異なる趣の絶景です。

キスの天ぷらに次いで提供されたのはアナゴの天ぷら。ちなみに、4代目のイチオシはアナゴなのだそうです。
江戸前といえばアナゴ。梅寿司さんのアナゴのお寿司も絶品でしたが、『大黒家』さんのアナゴはまた一味違う魅力が引き出されていました。

では、ご店主が一番好きな素材は?
「私が一番好きなのは……やはり山菜ですかね。山菜は天ぷらにして食べるのが一番おいしいと思っています。天ぷら屋は春と秋に盛況するのですが、春の山菜はぜひとも召し上がっていただきたいですね」(丸山さん)

天ぷらは、〝季節を味わう〟という言葉がぴったり。甘くてみずみずしいトウモロコシを一口頬張ると、まさに〝夏〟を食べているような感覚になりました。

肉厚のしいたけも、旨味がギュッと詰まっていて絶品!
と、ここでふと思ったことが。これだけ揚げ物を食べているのに、胃もたれするどころか、まだまだ食べたいと食欲が増しているのです!

「衣が軽く感じられるのは、油が良いという証なんです。うちで使用している油の割合は、ごま油6:綿実油(ワタの種子の油脂)4。衣は、揚げる直前に小麦粉と水を混ぜ合わたものを使っていて……」

どんな質問にも気前よく答えてくださる丸山さん。そんなことまで話していいの⁉︎ と勝手に不安になってしまいましたが、同じ材料や工程でも、この味は素人に出せるはずはありません。改めて、「天ぷらは天ぷら屋さんで食べるのが一番」ということを痛感いたしました。

余談ですが、「油が良いと胃もたれしない」と仰っていた名店が浅草橋にもう一軒あったような……

「天ぷら定食」のラストを飾るのは、かき揚げです。

かき揚げには、海老やホタテの他、食感が楽しいレンコンも含まれています。そのまま味わうもよし、ごはんに乗せて天丼風に味わうもよし。お好みの食べ方で召し上がれ♪

8種の天ぷらを堪能し、大大大満足! なのに、テーブルに掲載されていた「今月のお好み」を眺めていると、「あれも食べたい」「これも食べたい」と食欲が再燃してしまいます。

「ランチでも追加注文を承っていますよ。食べたいものがあれば、遠慮なく仰ってくださいね」(丸山さん)

絶妙な揚げ具合を見極めつつ、食べる人への気遣いも忘れない丸山さん。そのお仕事ぶりを間近で拝見し、多くのことを学びました。

「天丼」やテイクアウトメニュー、至福のデザートタイムもご紹介♪

お昼のメニューは、「天ぷら定食」の他にもうひとつ、『大黒家』伝来の味つけの「天丼」があります。

「おすすめはもちろん、ライブ感を味わいながら揚げたての天ぷらを召し上がって頂く天ぷら定食です。ただ、天丼には天丼ならではの魅力もあります。天丼の天ぷらは衣を多めにつけているので、タレをたっぷり含んだ衣や、タレが染み込んだごはんのおいしさが際立つんです。あと、ボリューム重視な方なら天丼の方が良いかもしれませんね」(丸山さん)

「天丼」をオーダーした編集長は、かき揚げの美味しさにいたく感動していました。

サクサク揚げたて天ぷらは言わずもがな絶品ですが、甘辛いツユが染み込んだ天ぷらも魅惑的……。一度目は「天ぷら定食」、2度目は「天丼」をオーダーして、違いを楽しんでみるのもオツですね♪

そして、現在は情勢を鑑みて、テイクアウトも実施中。このテイクアウトメニューが、破格のお値段なのです!

「宣伝の意味を込めて、格安で提供しています。いつまで実施するかは決めていませんが、しばらくの間はテイクアウトも続けようと思っています。つくるのに少しお時間をいただくので、予約の電話をしてもらえたらうれしいですね」(丸山さん)

普段は寡黙で、あまりお客様とはお話をしないという丸山さん。ですが、今回の取材では、どんな質問にも気さくに答えてくださり〝お座敷天ぷら〟のイロハを教えていただきました。

「うちがこだわっているのは、お客様との〝距離感〟です。目の前で揚がっていく天ぷらを眺めながら会話に花を咲かせて楽しんでいただきたい。それが〝お座敷天ぷら〟の醍醐味だと思っています」(丸山さん)

充実したランチタイムを終えたあとは、再び景色が見渡せる部屋に移動してデザートタイム。この時間が、えも言われぬ幸福感に包まれていました。

共に訪れた人と、感動や喜びを分かち合う。そんな時間をたっぷりと用意してくれているのも、塚田さんが仰っていた〝行ってみて初めてわかる大黒家の良さ〟のひとつなのだと感じました。

まとめ

『大黒家』は、スペシャルで非日常的な時間を過ごせるとっておきのお店。浅草橋の人々が口を揃えて絶賛する理由は、足を運んで初めてわかります。

「お世話になっている上司や、ありがとうを伝えるのが恥ずかしい家族にプレゼントをしたい」――そんな方はぜひ、大切な人を連れて『大黒家』へお出かけしてみてください。想像以上に素敵なひとときを満喫できることをお約束いたします。

【大黒家】
〒111-0052
東京都台東区柳橋1丁目2−1
JR総武本線「浅草橋駅」東口より徒歩10分
営業時間:11:00-14:00, 17:00-21:00
定休日:日祝 ※年末年始

大黒家HP

取材・文/牧 五百音
撮影/伊勢 新九朗