今を遡ること数十年……昭和60年(1985年)12月1日、まだ飲食店がほとんどなかったような浅草橋駅前に、もつ鍋で有名な「加賀屋」のブランドをひっさげて、「加賀屋浅草橋二号店」と称した酒場がオープンした。
常に客がひしめきあい、平日でも予約をとらねばなかなか入店ができず、閑散とした日曜日の浅草橋でも毎週満卓を貫き通す、そんな吞兵衛たちのオアシスの魅力とは何なのか?
「浅草橋を歩く。」編集長にして、痛風もちの吞兵衛・伊勢が、2度にわたる訪問を経て、徹底的に大レビュー!
そもそも「加賀屋」ってチェーンじゃないの?
さぁ、やってきました、「加賀屋」レビュー。実は、わたくし伊勢、「加賀屋はチェーン店」という勝手な刷り込みがあり、当サイトのコンセプトである「できるだけチェーンではなく個人経営の店をレポートする」に反してしまうかと勘違いしていて、今までアポをとろうとはしてこなかったのだが、同店のInstagramを見つけてフォローしてからというもの、毎晩のように、「本日のおすすめ」がアップされ、それらがあまりにも美味そうで、調べてみたところ、〝チェーンではなく暖簾分け〟に近いシステムということがわかり、「これは調査せねば!」と鼻息荒くしていたところ、浅草橋の名バー「HICRA.」のオーナーかつバシっ子の千葉氏の〝行きつけ〟だということを嗅ぎ付け(※Instagramのコメント欄にて)、思わず千葉さんに連絡をして、「加賀屋、取材させてくださいー!」と頼み込み、「なんなら一緒に呑みに行こうか?」と誘われて、ふたりで突撃してきた、という次第でござったのだ。
一文がなげぇ! のが、伊勢の特徴なので、そんな変則的な綴り方も含めて、伊勢と一緒に呑んだ気分を味わいながら、加賀屋をとくとご堪能あれ。
まずは、千葉さんと乾杯!
聞けば、千葉さんは〝酒を呑み始めたころ〟からこの店にお世話になっていて、店主・納富 信行(のうとみ のぶゆき)さんの娘さん・美里さんが、千葉さんの後輩なんだとか。世間は狭い、というよりは、浅草橋という町が、そういった昔から住んでいる人たちで構成されているということをより身近に感じさせるエピソードにほっこりする。
「そもそも、加賀屋は全国にたくさんあって、どこも味が違うってことで、加賀屋マニアは呑み歩き、食べ歩きしている」とのことで、さらに、「自分も昔は結構いろいろな加賀屋に行ってみて研究した」らしく、歩きに歩いた結果、「一番はここ、浅草橋の加賀屋だった」という結論に至った。とくに、「スタミナ(焼き)は絶品」で、全国の加賀屋でこの店のスタミナ焼きがナンバーワンであることを保証してくれた。
さて、話が突如、脱線しているので、この小見出しの話に戻るが、加賀屋とは、「もつ焼き・もつ煮込みを主力とする居酒屋。現在では東京都・埼玉県を中心に、50以上の店舗が営業している」とのこと。創業者が石川県出身だったこともあり、「加賀屋」と名付けられた。
ついでに、Wikipediaから引用すると、「1号店の開業後、各店舗で修行を積んだ弟子が独立してオーナーとなる、昔ながらの暖簾分けのスタイルで各地に店舗が増加した(新たに加賀屋の店舗を開業するにはいずれかの店舗で5年以上の修業を積む必要がある)。」というシステムで、つまりは、浅草橋店で修業を積めば、私自身も加賀屋をつくることができるってことなのか? いずれにせよ、だからこそ、メニューの定番はありつつも、メニュー全体としてはその店独自のラインナップがご用意されているということだろう。
ちなみに、看板にある「やっこだこ」のイラストは、何を隠そう、「ゴルゴ13」の作者であるさいとう・たかを氏なんだとか! ゴルゴの面影は一切ないけど、驚きだよ! 知っていると、加賀屋で呑んでいるときにちょっとだけ「おお!」を頂ける、加賀屋豆知識。
創業者とさいとう先生が仲良しだったからなんだって。
ということで、意外な人が絡んでいる加賀屋だが、吞兵衛界の重鎮たちも加賀屋賛歌をうたっており、「居酒屋ほろ酔い考現学」など、居酒屋を題材とした研究で知られる社会学者・橋本健二氏の評が印象的だったのでご紹介したい。
「加賀屋というと、いちおうチェーン店に入るので軽く見られがちなところもないではないが、やはり大衆酒場の王道である」。
はい、完全に〝軽く〟見ていてごめんなさい!
もう、めちゃくちゃ惚れたよ、わたくしは。
ということで、呑み喰いレポート開始!
ホワイトボード「本日のおすすめ」の魔力
この投稿をInstagramで見る
まずは、ある日の加賀屋のInstagramから(※Instagram担当の美里さんは、常連さんたちから、〝みーちゃん〟の愛称で呼ばれている。〝娘!〟と呼ぶ人もいるそうだ笑)。
このように、ホワイトボードに掲載される「本日のおすすめ」が、とにかく美味そうで、夕方近くになるとこういった投稿がアップされる。ちなみに、〝おすすめ〟メニューは人気なこともあり、あっという間に売り切れていくのも特徴だ。
2度にわたって来訪して気になる〝おすすめ〟メニューを喰らってきたので、参考にされたし。
個人的には、「シャコ刺身(680円)」が気になっているのだが、タイミングがあわず。
都内の酒場でシャコを食べられる店があまりないと思われ、これはいつかお目見えしたいメニューである。
名物「スタミナ焼き」は浅草橋のソウルフード
さて、冒頭でも紹介したが、ここらでもう一度、「スタミナ焼き」をご覧いただきたい。
見た目の〝うまそう!〟感はもとより、ひと口かじった瞬間に感嘆の声が漏れるのは必至。
初食のときは、「いやいや、これは美味いですわ!」と、千葉さんとのトークをさえぎって、感激の声が思わずあがってしまった。
違う角度からもぜひ。
とにかく、この串は、ちょっとほかでは食べられない味わいなので、浅草橋の加賀屋を訪れたら必ずや注文をおすすめしたい一品である。そして、なんといっても、一人前が2本で280円って! 安い!!
もちろん、名物「煮込み鍋」(480円)も必食! まろやかでやさしいお味の煮込みが体中に沁みわたる。煮込みも各加賀屋で味が異なるらしいが、浅草橋は随一ともっぱらウワサ。
気になる酒肴を一挙公開!
名物以外にも気になる酒肴がたっぷり。というか、通って一品一品食べてみたいという欲求にすらかられるが、二度の訪問で召喚できた品々をご賞味いただこう。
どんだけ食いしん坊! と、いうこと勿れ。
千葉さんとのサシ呑みのあとに、浅草橋のものづくりショップ「HI-CONDITION」と、浅草橋の古本屋「古書みつけ 浅草橋」の面々を引き連れて再訪した際に、がっつりたっぷり大量に、気になるメニューを食べ尽くしてきたのである。
だからこそ、二度目はボトルを注文。もちろん、4人でしっかり飲み切った。宵越しのボトルは持たねぇぜ!
町の人たちから愛される理由
「オープンした直後か21時以降ならば入りやすいと思います」。
と、店のInstagramを担当し、毎夜ホールで元気に働いている美里さんから教えていただいた。
つまり、18時~20時あたりの2時間は、よっぽど運がよくない限り、ほぼ入ることは不可能であろう。
それほどに、浅草橋の加賀屋が人気の理由を考えながら、店内を見まわしてみると、とにかく、お客さんの顔が楽しそうであり、店主やスタッフとのやりとりも軽妙で心地よく、そこに安くて美味しい酒肴が出てくるのだから、それはもはや「好き!」以外のなにものでもないだろう。
余談だが、実は、この町にはもうひとつ「加賀屋」が存在した。インターネットなどで検索すると、この店が「加賀屋 浅草橋二号店」と表示されることもあり、気になってはいたのだが、店主(※マスター、店長、のぶさんと呼ばれることが多いそいうだ)曰く、「私が修行していたのが一号店でした。暖簾分けをさせて頂いたあとに一号店が閉店し、今では当店だけが浅草橋の加賀屋となっています」とのこと。
ひとつの町で暖簾分けするほどに、町の人たちに愛されていたのか!
と、感激。おそらく、一号店からの常連さんもいまだに通っているのだろう。
もうひとつ、余談だが、漫画家の清野とおる氏は、コミックエッセイ「ゴハンスキー」の中で、同じく漫画家のルノアール兄弟の左近洋一郎氏との対談が掲載されていて、そこで左近氏は加賀屋の魅力をこう語っている。
「やっぱり”安定感”ですかね。お客さんの空気感、店員さんの接客、料理の味、この3要素がいつ来ても不変なんですよ。まるでメトロノームのリズムのように……。」
また、「左近さんにとっての加賀屋とは?」という質問に対して、「〝人生の応援歌〟ですかね。お客さんのにぎやかな声が『頑張れ、頑張れ』って言ってるように聞こえてくるんです。」とも語っている。
「人生の応援歌」、いいこと言う! 酒が沁みるじゃねーか!!
さて、最後に、今回の調査は、「HICRA.」の千葉さんを筆頭に、浅草橋で活躍する方々にもご協力頂いたこともあり、感謝の意を表明し、シメ的に各店舗レビューを貼り付けておく。加賀屋を愛する浅草橋の人たちはどんな活動をしているのか、ぜひ、参考にして、加賀屋話を携えて来店みてほしい。
秋寒し スタミナつけて 酔いどれて
今夜も、浅草橋の雑踏から、人生の応援歌が聞こえてくる。
加賀屋、サイコー!
【加賀屋 浅草橋2号店】
住所:東京都台東区浅草橋1-12-8
電話:03-3861-5737
営業時間:(平日)17:00~0:00(土・日)16:00~23:00
定休日:なし
写真・文/伊勢 新九朗