天然砥石と打ち刃物の“本物”が揃う老舗刃物問屋「森平」のこだわりがすごい!

古き良き問屋街の名残りを色濃く残す浅草橋には、昭和8年に創業した老舗刃物問屋「森平」がある。

前編では、当主である四代目、小黒章光さんに店の知られざる歴史や下町人情あふれる往時の浅草橋の逸話、そしてトラディショナルな職人文化を守り続ける思いをうかがった。

後編では、お店で取り扱う選りすぐりの刃物や稀少な天然砥石や森平オリジナル砥石といった、専門店でも随一の品揃えを誇る砥石など“本物”の道具の魅力、そして「料理が美味しくなる」簡単な研ぎ方などをお届けする。

職人が仕立てた最高品質の包丁の魅力

浅草橋駅東口から徒歩2分、「打ち刃物」「天然砥石」と銘打った暖簾をくぐると、店内にはところせましと道具が陳列されている。

「打ち刃物」とは、職人が地金と鋼などを炉で熱してハンマーで打ち、形状を作り上げる伝統の製法のこと。ショーケースに飾られている数ある商品の中で、まず目をひくのが包丁だ。

森平では牛刀、三徳、出刃、刺身包丁などの和包丁、洋包丁や皮包丁などが、種類や銘柄、細かいサイズ違いだけで100種類以上ズラリと揃う。

プロご用達の選りすぐりの包丁が並ぶ。

そのラインナップはプロの料理人はもちろん、プロツールにこだわる趣味人にも厚く支持されているが、これから料理をはじめるビギナーでも、主な用途や価格帯を伝えれば最適なものをチョイスしてくれるので安心だ。

今回、数ある中で小黒さんがおすすめしてくれたのが「久元」の包丁。

森平オリジナルのブランド・久元の包丁。

これらは「松炭焼打鍛造」という製法で作られている。

「松炭は火の付きがよく、最大火力が強いため古くより金属の鍛錬には欠かせない燃料」

熟練の鍛冶職人でないと取り扱いが難しく、プレス成形による大量生産品が主流になった現代においても、最高級の包丁の焼き入れには松炭が使用されているとか。その伝統製法を今に伝え、精選された上質素材を使用し、職人が一本一本仕立てているのが久元の包丁だ。

素材から久元の包丁ができるまでの過程が展示されている。

「松炭には炭素が含まれているので、より刃が強くなります。打ち刃物は、鋼を丁寧に鍛錬して地金を整えて合わせ、延ばして作る。刃文も美しく、大量生産品とは品質がまったく異なります。ただ刃は硬くすればするほどいいってもんじゃない。硬くしすぎるとこぼれやすくなります。なのでうちでは、鋭く、“粘り”のある弾力的な切れ味の刃物にこだわっています」

そのこだわりを表しているのが柄に張られた「手研ぎ本刃付」のシールだ。こちらは職人が仕上げた刃物を、森平で天然砥石を用いて手研ぎで仕上げ、さらに滑らかさを引き出しているので、切れ味がさらに良くなっているだけでなく、持続する刃になっているという。

稀少な天然砥石の品揃えは専門店随一!

その他にも、釜地を使って鍛造した貴重な名品から手頃な商品まで幅広く揃う鉋(かんな)や植木職人の要望に応え、手造りで細部に至るまで使い勝手のいい形に仕上げられた剪定鋏(はさみ)、昭和初期から続く手造り鍛造の技術で強靱な刃に仕上げ、林業や植木屋にも重宝されている鉈など、伝統技術で作られる打ち刃物は見ているだけでも楽しい。

プロツールは手に取りたくなる美しい佇まいも魅力。

そして何より、日本の専門店の中でも随一品揃えを誇るのが、それらの刃物を磨き上げる天然砥石だ。

砥石には天然砥石と人造砥石があり、その違いを小黒さんがこう教えてくれた。

「天然というのは、その名の通り自然の山から採ったもの、人造は人が作った人工物。天然ものはたとえ同じ産地、銘柄でも、層や切り出し方など一つとして同じものはありません。天然砥石の良さは、石の粒子に丸みがあり、うまく研いでいると粒子が細かくなってくる。刃物に深い傷がつきにくく、刃が締まり、きれいに仕上がる。さらに、刃物が長切れする耐久性も天然砥石ならでは。日本刀の時代から『化粧研ぎ』といって、刃物をきれいに研ぐ時は天然ものに限るといわれていた代物なんです」

稀少なものから手頃なものまで天然砥石が豊富に揃う。

そして、使い勝手の良さも天然砥石ならではだ。砥石というのは水がないと刃物は研げない。人造砥石は研ぐ30分ほど前から水に浸しておくという準備が必要だが、天然砥石は研ぐ直前、表面に水をかけて塗らすだけですぐ研げる。

そういった天然砥石は、かつて日本全国で採掘されていたが、鉱山が次々と閉山したことにより衰退。今では流通している砥石の90%以上が人造砥石だが、森平では他にはない稀少な天然砥石も豊富に扱っている。

「料理が美味しくなる」研ぎ方をレクチャー

天然砥石に比べ、人造砥石は品質が安定していて使いやすく手頃だが、粒子が尖っているため刃に傷がはいりやすいというデメリットがある。そこで小黒さんは、80余年に渡って蓄積された知識と経験を駆使し、5年の歳月をかけて天然砥石に比する研ぎ味と切れ味を徹底的に追究した最高品質のオリジナル砥石「Morihei火」シリーズを開発した。

素材に良質な天然石を配合した「Morihei火」シリーズは、荒砥から超仕上砥石まで全6種類(7,150円〜15,840円)。鋼やステンレスにも対応し、鉋やノミにも使用可能。

今回、編集部では一般の人でも万能に使いやすい三徳包丁を購入。店に入って右側にある研ぎ台で、家庭用におすすめの「Morihei火」シリーズの♯1000(中砥石)を使い、誰でも簡単にできる基本の研ぎ方を教えていただいた。

●研ぐ直前に水をかける。

数十分前から水に浸す必要はなく、天然砥石同様、直前に水をかけるだけでOK。

●砥石に向かって真ん中に立ち、少しかがむ。

「正面に立って『いらっしゃいませ』と少しかがむ程度の姿勢。正面に立つことで力が均等に入り、仕上がりにムラが出ません」

●包丁の角度は親指半分程度。

砥石に当てた時の包丁は、柄を持つ手の横にした親指の半分くらいの角度が理想。

●研ぐ時は押す時だけ

「押す時だけ少し力を入れて研ぎ、引いている時は研ぎません」柄に近い刃元の部分から先端の刃先の部分までずらしながら万遍なく研ぐ。

●反対側も押す時だけ研ぐ

「反対側を研ぐ時はそのまま包丁を裏返しにし、同じように押す時だけ研ぎます」

仕上がりの目安をはかるのは切れ味。研いだ後、紙に刃を入れた時、力を入れなくても淀みなくスーっと切れるのが理想だ。研ぐ前に紙に刃を入れておくと、仕上がりがより分かりやすくなる。

研いだ後のなめらかな切れ味に驚かされる。

研いだ後は、水洗いして乾いたタオルで拭いて、干さずに置いておくだけ。毎日料理をする人は、毎日研ぐのが理想だが、切れ味が悪いと思った時に研げばいいとか。

「切れ味の悪い包丁は野菜を切る時、繊維を殺し、魚もぐじゅぐじゅになって味に関わってきます。砥石で研ぐというのは、ただ刃物の切れ味を良くするだけでなく、食材を生き返らせて、料理を早く美味しくする行為なんです」

料理ビギナーでも最適な砥石に出会える店

森平では「Morihei火」シリーズをはじめ、砥石の面の粗さで様々なタイプが豊富に揃う。基本は、砥石の面が粗く、崩れた刃のラインを大まかに整える「荒砥(あらと)」、荒砥よりきめ細かい「中砥(なかと)」、そしてさらに粒子が細かく、中砥でつくった刃の切れ味をさらにアップさせて仕上げる「仕上げ砥(しあげと)」の3種類だ。料理ビギナーや家庭用なら、まず中砥が一つあればいいとか。

分からないことは砥石を知り尽くした小黒さんが教えてくれるのがうれしい。

料理にこだわりがある趣味人は、まず森平を訪れたら包丁の種類と用途を伝えよう。洋包丁、和包丁、片刃や両刃など、どういった包丁と研ぐか、そして予算によっても砥石は異なり、専門知識がなくても小黒さんは一人ひとり丁寧に話を聞きながら最適な砥石に導いてくれる。しかも、試しに研がせてもらえるので安心だ。

コロナ禍前は日本全国だけでなく、イタリアやフランス、ドイツなど海外の料理人や砥石マニアが、海を渡って森平の砥石を求めてわざわざ浅草橋に訪れていたとか。

コロナ禍以前は、海外からのお客さんがしょっちゅう来ていたという。写真提供:森平

イタリア在住の砥石マニア。彼は、成田空港から直行で森平に砥石を買い付けに来て、すぐさま母国に帰り、息子さんの小学校で砥石研ぎの実演をしている写真を送ってきてくれた。写真提供:森平

そして、研ぎだけの依頼もできる。刃物の種類によって価格が変わり、仕上がりの目安は約2週間。

ニューノーマルなライフスタイルが定着しつつある今、より料理の時間を豊かに楽しくするために、一度店に訪れてみてはいかがだろうか。

【森平】
住所:東京都台東区浅草橋1-28-6
電話:03-3862-0506(代表)
営業時間:9:00~17:30(※営業時間を変更することもあります。お問い合わせいただければ幸いです)
休業日:土・日・祝日

森平

伝統の刃物文化を次世代に紡ぐ「森平」四代目・小黒章光さんインタビュー【浅草橋の粋人】

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取材・文:藤谷 良介
写真:伊勢 新九朗